【気候変動対策】「原因」の共有は困難でも、「解決策」の共有はできる

  気候変動を始め、環境問題は良いニュースが少なく、いつ誰がどこでどんな酷い目に遭ったとか、いつぐらいにどの辺に住むどういう人たちがどんな酷い目に遭うかといった内容が主流です。もちろん、再生可能エネルギーが予測よりも早く普及しているなど、中には良いニュースもあります(これも地域によってはあまりよろしくないニュースだったりしますが。日本のメガソーラーとか)が、比率としてはとても小さい印象を受けます。

  なぜそんなことになるのかというと、一般的に気候変動関連の研究やリサーチ結果は、「現在の状態」「過去からの変化」「将来的な予測と課題」を伝えるためのものだから、というのが大きいと思います。つまり、気候変動や環境問題は、「今こんなに酷いことになってる」「○○年前と比較してこんなに酷いことになった」「このままだと○○年後にはこんなに酷いことになる」という、論文やレポートを読む者を陰鬱な気分にさせる目的で書かれているのか、と思いたくなるような内容であることが多いのです。

  気候変動は、人間活動による温室効果ガスの排出が原因であるというのが、90%以上の気候科学者の共通認識です。「人間のせいで平均気温が上昇していて、それを止める(緩和させる)ために、化石燃料への依存をやめなければならない。」という字面だけを見れば簡単そうに思えますが、これを認めて行動に移すのは大変なことなのです。

「お前のせいでこうなったんやないか。このままやったらもっと酷いことになるんやぞ。生き方を変えろや。」

と言われて、素直に「はい、そうですよね」と受け入れられる人はいません。経済活動を中心に、これまでの生活様式(化石燃料への依存)が環境(生物も含めて)と一部の人たちを傷つけてきたことを認めたうえで、その依存から脱却して新しい生き方(化石燃料以外のエネルギー)を選ぶのは、季節変わりに衣替えをするようにはうまくいかないものです。気候変動対策は、これまで積み上げてきた世界観を変えることになるため、イデオロギーのぶつかり合いになりがちなのです。

  では、どうすればこれまでのシステムからすんなりと新しいシステムへと移行できるのでしょうか。その参考になりそうな研究結果とアンケート調査結果があります。

  まず、「気候変動対策の社会的便益を強調すればイデオロギー対立による行き詰まりを打開できる(原題: Emphasizing social benefits of climate action can overcome the ideological impasse)」という研究結果は、気候変動の科学とその影響(主に悪影響になってしまいます)をいくら説明しても、その深刻さに見合うほどの速さで人々の行動を促すことができない現状を踏まえ、気候変動対策が社会にもたらす共通便益(共通の利益: みんなで気候変動対策したらこんなにええことあるんやで、と)を強調した方が効果的だとしています。

  また、同研究によると、気候変動対策による環境汚染や疾患の低減を訴えるよりも、経済発展や科学の進歩、道徳的な社会の構築に繋がると訴える方が、気候変動対策に取り組む意欲を高めたそうです。

  この研究結果をサポートする世論調査結果を米共和党の世論調査専門家が発表しています。


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  上のグラフは、人間活動が地球温暖化にどれくらい起因しているかという質問への答えなのですが、「大いに」「少し」起因していると答えた「保守的な共和党支持者」(「共和党支持者」と「保守的な共和党支持者」に区別されています)は合計で54%に上ります。この数値は以前よりも高い値で安定してきており、それは恐らくアメリカで以前よりも頻繁に干ばつや洪水、豪雪などが起こるようになってきたことに起因すると思われます。

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  上の表は、「どのような気候変動対策を訴える議員候補者に投票しますか?」という設問に対する、「無党派層」、「共和党支持層」、「保守的な共和党支持層」の答えです。最も支持された気候変動対策のメッセージは、「気候変動に関する議論は関係なく、国外の原油への依存を減らし、大気汚染を軽減し、公衆衛生を改善するために、もっとクリーンエネルギーを導入するべきだ。」というもの。気候変動を認めているメッセージでも、「厳しい規制を避けるために」や「市場主導型のアプローチが必要」という言葉が入っていることで、保守的な共和党支持層からも高い支持を受けています。

  逆に、無党派層は「市場主導型のアプローチ」や「気候変動の科学はクリアではないが」という言葉に抵抗を感じるようです。

  共和党支持層にとっては、望まない方向(政府による厳しい規制や歳出の増加)に進まず、気候変動対策が社会的利益に繋がるものであることが最重要なのでしょう。

  気候変動は「いつか起こること」ではなく、すでに「今そこにある深刻な問題」になっており、取り返しのつかない状況になる前に、迅速な対策の取り決めと実行が必要です。その深刻さ故に、気候変動に関わっている環境保護団体や活動家、研究者の発するメッセージは現在と未来の危機的状況を伝えるものになりがちです。

  でも、ここで取り上げた研究と世論調査の結果を踏まえて(ふたつの結果の中で若干ぶつかり合う部分があることも含めて)効果的なメッセージを発信することが、気候変動対策を速やかに実行に移すための重要な課題であるということができるのではないでしょうか。

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