ハリケーン「パトリシア」を史上最強まで発達させたのはエルニーニョ?温暖化?

  10月23日の夜に、観測史上最強まで発達したハリケーン「パトリシア」が、メキシコ西部の太平洋東岸に上陸しました。上陸時にはわずかに勢力を落としましたが、その勢力は、2013年にフィリピンに大きな被害をもたらした台風30号「ハイエン」に匹敵する大きさでした。

  中心部の最大風速は毎秒約90メートル(時速200マイル)、中心付近の気圧は879ヘクトパスカルと史上最強で、ハリケーンのカテゴリー5を大きく上回る風速を記録。風速を基準に決められているハリケーンのカテゴリー3が 115-135 mph、カテゴリー4が135-155 mph、最大のカテゴリー5が155-175 mphであることから、その延長でいくとハリケーン「パトリシア」の200mphはカテゴリー7に該当するとも言われています

  特筆すべきなのは、発達するために要した時間が短いことです。

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Credit: The Vane

  上のグラフでわかる通り、わずか40時間で最大風速が時速40マイル(毎秒約18メートル)から時速200マイル(毎秒約90メートル)、中心付近の気圧が1000ヘクトパスカルから880ヘクトパスカルまで達しました。

  その主な原動力(「燃料」と例えた方がわかりやすいかもしれません)となったのは、史上最大級レベルに発達中のエルニーニョ現象です。

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Credit: Mashable

  上の図は、太平洋東沿岸の海表面気温の地図なのですが、エルニーニョの影響で例年のこの時期に比べると1℃から2℃高くなっており、また、エルニーニョ時には暖かい海水が例年よりも深い場所まで辿り着くため、その暖かい海水からエネルギーを供給されたハリケーンは通常よりも速く発達することができたようです。

  では、気候変動による地球温暖化はこのハリケーン「パトリシア」に影響を与えているのでしょうか?現時点では、「わからない」が最も適当な答えでしょう。エルニーニョ現象は、自然な気候現象であると考えられおり、気候変動と関連があるかどうかはわかっていません(そもそもエルニーニョ現象は未解明の部分が多い)。加えて、ハリケーンや極度の干ばつ、大雨による洪水などが発生するたびにいつも話題になるのですが、特定の気象事象に温暖化が直接的な原因になっているかどうかについて、すぐにハッキリした答えは出せません。後で、コンピュータモデルによって影響の有無と影響の度合いをシミュレーションすることになります。
  平均気温の上昇による空気中の水分の増加が、ローカルの降雨イベントからハリケーンまで、すべてを強くする役割を果たすという研究結果はありますが、現段階ではあくまでも「エルニーニョの直接的な影響は受けたが、地球温暖化が原因かどうかはまだわからない」としか答えようがありません。恐らく数ヶ月後にハリケーン「パトリシア」への温暖化の影響があったかどうかの研究結果が発表されることでしょう。

  気候科学者たちは「地球温暖化が特定の気象事象の直接的な原因であるとは言えないが、温暖化によって昔とは大気の状態が違う状態になっているため、すべての気象事象が多かれ少なかれ温暖化の影響を受けていると言うことはできる。」とよく言います。これは間違いないでしょう。温暖化は、よくスポーツ選手のドーピングと比較されます。例えば、ドーピングによって速く走ることができたり、高く飛ぶことができたり、野球で打者がより遠くへ打球を飛ばすことができるようになっても、いったいどれくらい速く走れるようになるのか、何センチ高く飛べるようになるのか、ホームランが何本増えるのかを証明するのは大変困難です。ただ、1900年よりも約0.8℃高い平均気温が、気象事象のベースになっているのは確かです。そして、1900年からその1℃にも満たない世界平均気温の上昇で、極端な気象事象が起こるようになってきている事実をしっかりと受け止めるべきではないでしょうか。

【参照】

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