ネイチャー・クライメート・チェンジのハイライトに取り上げられた研究結果によると、これまで5度にわたって発表されている、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価報告書の政策決定者向け要約」がいつまで経っても読みにくいという評価を受けています。
I strongly agree with the study!
大学の授業では当然のように読んでいることを要求され、テストなどで内容を把握しているかどうかを試されたりするのですが、読みにくいったらありゃしないのです。
でも、科学的事実をレポートにすれば、読みにくくなるのは当然の結果であるとも言えます。まず、専門用語が山のように出てきますし、評価報告書を読むための予備知識も必要です。グラフや表とそれに関連する部分だけを斜め読みするにしても、その元になっているデータや統計の計算方法、物理などの知識が要求されるので、決して敷居の低いものではありません。
そもそも、「政策決定者向け」なので、例えば「気候変動問題に興味があるから読んでみよう」と思った科学のバックグラウンドを何も持っていない人が目を通してもちんぷんかんぷんなのではないでしょうか。
政策決定者向け要約は、回を重ねるごとに難解になっており、1990年に発表された第1次評価報告書以降、評価指標の値が低下を続けていることが明らかになった。
要約が回を重ねるごとに難解になっているのは、気候科学の不確かさがより細かく専門的になってきているのと、多くの科学者が内容に同意しなければ出版できないため、全ての関係者が納得する表現を追及した結果、より難解な文章になっているものと思われます。
その点、ニュースメディアはわかりやすさを追及しているので、両者の溝が広がっていくのは当然の流れのように思います。それに、ニューヨークタイムズやワシントンポストで気候変動の科学について記事を書いている記者たちはバックグラウンドもしっかりしていますし、また、評価の高い気候科学者たちに取材して記事を書くので、IPCCよりもわかりやすいのは納得できます。
でも、そのニューヨークタイムズやワシントンポストの気候科学に関する記事が、一般の人たちにとってわかりやすくて読みやすいものかというと、やはり気候変動の科学や基礎的な物理の知識がないと、途中でそっと記事を閉じることになると思います。
元々、気候科学、気候変動の科学はとても複雑で、様々な要素が絡み合っているため、わかりやすくすることに限界があり、わかりやすくすることで誤解を招くこともあるように感じます。そもそも、「科学的な文章を書く能力」と「わかりやすい文章を書く能力」は全く別のものなので、両方をIPCCに求めるのは酷だな、というのが私の率直な感想ですね。
ただし、マスコミ報道の論調は、おおむねIPCC評価報告書自体よりも悲観的なものになっている。
マスコミ報道の方が悲観的なのは、IPCCが発表する評価報告書に誤りがあったり、IPCCが悲観的な研究結果を報告書に掲載すると、各方面から批判が集中するため、報告書がより保守的な内容になっているからです。もっとも最近のIPCCレポートは、気候科学者間では「あまりにも保守的すぎる」と酷評されています。
実際のところ、地球温暖化はIPCCレポートの最悪のシナリオを超える勢いで進行しており、楽観できる状況ではないので、個人的には現実に即してもっと悲観的な内容にした方がいいと思います。
【参照】
ますます難解になるIPCC報告書と、マスコミ報道の充実 | Nature Climate Change
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