パーム油の環境正義問題

  インドネシアの森林火災の記事の中で、私たち遠く離れた先進国に暮らす者にとって、決して他人事ではないという話をしましたが、たとえ森林火災が起こらなくても、パーム油の生産そのものが、多くの問題を抱えています。

  パーム油は、熱帯の湿潤な地域で育つアブラヤシの果肉を搾って作られますが、その約80%がインドネシアとマレーシアで生産されています。これらのプランテーション(農園)は、熱帯雨林を伐採したり、泥炭地を野焼きして確保されています。そして、その多くは違法で、政府による取り締まりが厳しくないために野放しになっているケースが多いのです。熱帯雨林の乱開発といえば、すぐにアマゾンを思い浮かべるかもしれませんが、インドネシアは、最近までどの国よりも速く森林を伐採していたブラジルの2倍の森林を、2012年に伐採したという研究結果もあります。

  栽培が比較的容易で用途が多様、しかも原価を低く抑えることができるパーム油のシェア率は、植物油の中で一気に伸び、2005年に大豆油を抜いて現在ではトップになっています。下の図では、植物油におけるパーム油の割合が36%となっていますが、同じWWFのより新しい情報では、国際的に取引されている植物油のうち、パーム油の占める割合は65%とされています。  また、今後人口の増加に伴い、2020年までには、生産量が現在の2倍になると予想されています。

世界における植物油生産量.jpg
Credit: WWF

  インドネシアやマレーシアの熱帯雨林を伐採、野焼きして大規模なプランテーションでアブラヤシを栽培する弊害は、野焼きで排出される二酸化炭素などの温室効果ガスによる温暖化の促進や、大気汚染物質による健康被害だけではありません。

  アブラヤシのプランテーションでは、違法な低賃金で労働者が働かされており、児童労働も問題になっています。また、熱帯雨林に暮らしていた多くの先住民族や住民たちが、森林開発のために住む場所を追われ、さらに、地域住民との軋轢も生じています。そして、その影響は人間だけでなく野生生物たちにも及び、オランウータンやトラ、サイやゾウなどが絶滅の危機に瀕しています。

  では、このパーム油が私たちの生活とどう関係があるのでしょうか?

  パーム油は、多くの商品に使われています。代表例を挙げてみましょう。

食品: 食用油、インスタントラーメン、パン、ペストリー、マーガリン、ショートニング、コーヒー用クリーム、冷凍食品、レトルト食品、ドレッシング、カレーのルー、フライドチキン、ドーナッツ、フライドポテト
嗜好品: ケーキ、チョコレート、ビスケット、スナック菓子、アイスクリーム
洗剤等: 石けん、洗剤、トイレタリー製品
化粧品・パーソナルケア製品: 口紅、各種クリーム、シャンプー、デオドラント、歯みがき
その他: 医薬品、プラスチック、塗料、ペットフード、バイオ燃料
Credit: WWF

  私たちが日常的に使っているものの多くにパーム油が含まれているのです。これが、森林火災の記事の中で「他人事であってはならない」と書いた理由です。
  私たちは、自分の知らないうちに、世界のどこかで起こっている環境正義問題の加害者になっているのです。

  私たち消費者に何かできることはあるのでしょうか?

  選択肢のひとつとしては、WWFが推奨している「持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)」のような、新たな森林伐採を避け、環境や労働者の人権に配慮した、持続可能なアブラヤシプランテーションの経営基準に沿って認証を受けた農園や搾油工場で生産されたパーム油を使用しているという認証マークのついた商品を選ぶことが可能です。RSPOは2004年に設立され、少しずつ参加企業も増えていますが、RSPOの認証を受けたパーム油関連商品はまだ全体の約20%しかなく、残りの約80%については野放しになっているのが現状です。

  もうひとつの選択肢として、自分で商品の製造・販売企業に問い合わせて、サプライチェーンを確認するという方法もあります。企業によっては、ウェブページにサプライチェーンについての情報を掲載している場合もありますので、確認してみるといいかもしれません。

  大企業は利益を追求します。そのためには、コストをできる限り低く抑えようとします。そのしわ寄せを受けるのは、開発途上国の労働者や児童たちです。自分が手にしているものの原材料がどこでどのような環境で誰によって作られ、どこでどのような環境で誰によって製品化され、どのように流通して小売店に辿り着き、そして誰から購入することになるのかを調べ、もしもそこに理不尽や不公正が存在する場合は、買うのを避けるようにすればよいのです。

  遠く離れた場所で生活する私たちの選択ひとつで、違法な熱帯雨林などの森林伐採や、環境汚染、人権侵害を減らしていくことができます。環境正義問題は、消費者の選択によってなくしていくことが可能です。

  私たちは、不公正を生み出すサイクルの中にいる当事者なのです。

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【参照】
Palm Oil|Verite

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