2100年までの気温上昇を、産業革命以前と比較して摂氏2度未満に抑えなければいけないのはなぜなのかという記事の中で、気温が2度上昇すると、2100年までに海面が26センチから82センチ上昇すると述べましたが、このIPCCの予測はとても保守的で、多くの気候科学者が異論を唱えています。
では、他にどのような予測や、2100年よりも先にはどれくらいの海面上昇が予測されているのでしょうか?
2013年に発表された研究(Levermann et al. 2013)によると、1℃の気温上昇につき、約2.3メートル海面が上昇するそうです。海面上昇に要する時間は2千年以内とされています。つまり、2100年までの気温上昇を2度に抑えた場合でも、2千年以内に約4.6メートル海面が上昇することになります。
2015年7月には、大気中の二酸化炭素レベルが現在とほぼ同じ400ppmだった300万年前は、現在よりも気温が2℃から3℃高く、海抜は最低でも6メートル高かったという研究結果(Dutton et al. 2015)が発表されました。つまり、気温1℃あたり最低でも2メートルは海面が上昇することになります。
Credit: Dutton et al. 2015
さらに、別の研究結果(Hansen et al. 2015)では、もしも南極とグリーンランドの氷床が、これまでの研究結果のような直線的ではなく、加速度的に融解した場合、50年から200年の間に数メートルの海面上昇が起こる可能性があるとし、2℃の気温上昇は大変危険だと結論づけています。
国連環境計画によると、世界の人口の半分は海岸から60km以内に居住し、世界の大都市の4分の3は、海岸線に位置しています。また、5億人近くが、海抜5メートル以下の場所に住んでいます。海面が6メートル上昇すると、これらの人たちは移住するしか手段がありません。そして、すべての国や人が移住に必要な経済力を持っているわけではありません。また、途上国の海岸に近い、海抜の低い場所にはスラム街が多く、ホームレスなどの多くの貧しい人たちが暮らしています。
海面上昇は、世界中で数十億人の生活に影響を与えることになるのです。そして、その影響を最も受けるのは、適応する術を持たない、経済力や技術力のない国々の人たち、そして先進国の海岸沿いに暮らす貧しい人たちです。
対策は、早ければ早いほど、人的被害も経済的被害も小さく、遅れれば遅れるほど加速度的に大きくなります。
何十年、何百年、何千年先のことと他人事のように扱っていいのでしょうか?
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【参照】
Levermann, A., Clark, P., Marzeion, B., Milne, G., Pollard, D., Radic, V., & Robinson, A. (2013). The multimillennial sea-level commitment of global warming. Proceedings Of The National Academy Of Sciences, 110(34), 13745-13750. doi:10.1073/pnas.1219414110
Dutton, A., Carlson, A., Long, A., Milne, G., Clark, P., & DeConto, R. et al. (2015). Sea-level rise due to polar ice-sheet mass loss during past warm periods. Science, 349(6244), aaa4019-aaa4019. doi:10.1126/science.aaa4019
Hansen, J., Sato, M., Hearty, P., Ruedy, R., Kelley, M., & Masson-Delmotte, V. et al. (2015). Ice melt, sea level rise and superstorms: evidence from paleoclimate data, climate modeling, and modern observations that 2 °C global warming is highly dangerous. Atmospheric Chemistry And Physics Discussions, 15(14), 20059-20179. doi:10.5194/acpd-15-20059-2015
Cities and Coastal Areas|United Nations Environmental Programme
Sea Levels Could Rise At Least 20 Feet|Climate Central
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