キーストーンXLパイプラインの建設認可申請が、オバマ政権によって却下されました。そのことについて書いた別記事では、パイプラインの概要や背景、今後どうなるかについて触れました。
今回の決定を、オバマ大統領によるレガシー作りだと捉える人が多いようです。僕もそれを否定しようとは思いませんし、パイプライン建設が気候変動にどれだけ寄与するのかを超えてキーストーンXLパイプラインはシンボル化されてきたため、大統領がこれまでに行ってきた、石炭火力発電所からの二酸化炭素排出量の規制や、自動車の燃費の規制などの、キーストーンXLパイプライン以上に効力がある気候変動対策よりも、今回の決断は人々に強い印象を残すと思います。
そして、オバマ大統領の決断は、今月末にパリで開催される気候変動パリ会議(COP21)での、京都議定書に代わる国際的合意のための交渉に影響を与えることでしょう。
でも、オバマ大統領にパイプライン建設を却下する決断をさせたのは、7年間反対運動を続けてきた人々の声であり、行動だと思います。
当初、キーストーンXLパイプライン建設は、パイプラインが通過する場所に住んでいる人たちだけの問題でした。カナダでもアメリカでも、先住民族の居留地にパイプラインは建設されています。先住民族たちは、団結して反対の声をあげ続けました。
ここテキサス州では、水質汚染を懸念して、牧場や農地をパイプラインが通過するのを拒否する農業経営者がいましたが、最終的にはトランスカナダ社から訴えられ、州によって土地の一部を強制収用され、周囲からは国のエネルギー安全保障のために犠牲を払うこと拒否する非愛国者だと批判されました。
そんな人たちが、「反対するだけ無駄だ」「どんなに反対しても2011年には認可が下りてパイプラインが通る」と嘲笑されながら、2008年から7年間、一緒に声をあげる仲間を増やしながら、反対運動を拡大させてきました。
最初は参加者が1200人ほどだったホワイトハウスを包囲するパイプライン建設反対デモは、1万人を超えるようになり、最後には約5万人がホワイトハウスを包囲し、約千人がその抗議活動で逮捕されるまでになりました。日本では、デモで逮捕されると、逮捕者に対して同じデモ参加者から批判の声があがりますが、ホワイトハウスでのキーストーンXLパイプライン建設に反対する抗議活動では、デモ参加者たちが逮捕者を拍手で送り出し、翌日に釈放されて戻ってきた人たちを拍手で迎えました。
キーストーンXLパイプラインは、通常の原油以上に環境を破壊するオイルサンドの輸送という枠を超え、気候変動問題のシンボルになっていきました。パイプライン建設への反対運動が、気候変動対策への取り組みを求める運動へと進化を遂げていったのです。
そして、昨年(2014年)の気候サミット開催前の9月21日に行われたデモ、「People's Climate March」には、キーストーンXLパイプライン建設に反対する人を含め、先住民族、気候正義問題に直面している人たち、労組、子ども、学生、お年寄り、環境保護団体、水質汚染被害者グループ、反資本主義運動団体、科学者、医者や看護師などの医療関係者、宗教団体、自治体の首長、政治家、タレントなど、様々な人が垣根を越えて集まり、40万人を超える参加者がニューヨークを行進しました。
その後から、パイプライン建設認可に対するオバマ大統領のトーンが変わり、却下を臭わせるような発言をするようになりました。
変化はすぐに訪れるわけではありません。嘲笑われ、罵られ、批難の声を投げつけられながら、バックグラウンドや価値観、職種や世代の違う人たちが、パイプライン建設への反対運動だけではなく、気候変動問題を僕たちの時代で解決するために、分断されることなく団結し、声をあげ、歩み続けたその先に、オバマ大統領のパイプライン建設却下の決断があったのです。
今回のこの結果は、今後に大きな影響を残すと信じています。自分の声には、世の中を変える力があることを、多くの人たちが信じるようになるはずです。
化石燃料からの脱却までは、まだまだ長い道のりが待っています。世界で最も裕福な石油産業は、これまで以上に資金力を駆使して、政治に影響力を発揮しようとしてくることでしょう。
それでも、歩みを止めなければ、声をあげることをあきらめなければ、必ず辿り着くことができるはずです。
キーストーンXLパイプライン建設の却下が、それを証明してくれました。
小さな一歩なのかもしれません。
でも、確かな、力強い一歩だと思います。
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