アメリカの2015年10月の気候レポートについての記事で、10月の米本土48州の平均気温が史上15番目だったのに対し、最低気温の平均は観測史上4番目に高く、日没以降の気温が下がらない傾向が続いていると書きました。
これは、日中の最高気温よりも、夜中の最低気温の方が上昇傾向にあることを意味します。
・10月の平均最高気温
・10月の平均最低気温
上のふたつの図を比較すれば、最高気温の平均よりも、最低気温の平均のランクの方が高いことが直感的によくわかると思います。明らかに平均最低気温の方が「赤い」ですよね。
10月だけではなく、今年に入ってからの10ヶ月間の記録を見てもこの傾向が強いです。
・1月~10月の平均最高気温
・1月~10月の平均最低気温
米西部やテキサス州、フロリダ州などを比較すれば、最低気温の方が暖かい傾向にあることがわかります。
では、なぜ最低気温の方が上昇傾向にあるのでしょうか?
言い換えると、なぜ夜中の気温が下がりにくいのでしょうか?
この昼と夜の違いを分けている最大の要因は、「雲」であると考えられています。
平均気温が上昇すると、地表や海からより多くの水分が蒸発し、大気中の水蒸気が増えます。大気中の水蒸気が増えると、その分、エアロゾルと結合して雲になる水蒸気が増えます。温暖化によって、より多くの雲に覆われることになります。
昼間の雲は地表を温める役割と同時に温めさせない役割も同時にこなすのですが、夜中(日没後)は、温める役割しか果たしません。
日中は、太陽からのエネルギーが地表に向かって、地表からのエネルギーが大気に向かって放射されます。雲は、地表からの放射エネルギーを遮って地表に反射し、地表を温めます。その反面、太陽からのエネルギーを反射し、気温を下げる役割も果たすのです。雲の量が増えれば増えるほど、太陽からのエネルギーを反射することになります。このため、雲に覆われている日の方が、快晴の日よりも日中の最高気温が低くなります。
日没後の雲は気温を下げる役割を果たさなくなり、地表から大気へ放射されるエネルギーを地表へ反射する役割だけになることから、昼間の最高気温の上昇は緩やかで、最低気温の上昇の方が速くなっていると考えられています。
これを裏付けるデータもあります。2015年の1月から11月初旬までの記録では、日毎の最高気温記録の更新が21,195件、同最低気温記録更新が30,187件と最低気温記録更新の方が約42%多く、2014年から今年をまたいだ365日間では、24,213件の日毎の最高気温記録の更新があり、最低気温の記録更新は35,769件と最低気温の方が約48%多くなっています。
世界を見ると、年初来の日毎の最高気温記録の更新は41,581件で、同最低気温記録更新は48,742件と最低気温記録更新の方が約17%多く、直近365日間では日毎の最高気温記録の更新が46,655件あり、同最低気温は56,436件の記録更新があり、最低気温記録の方が約21%最高気温の記録更新を上回りました。
これらの結果を比較すると、アメリカの方が日毎の最低気温の記録更新が多くなっており、世界の他の地域よりも日没後の気温が下がりにくくなっていると言えます。他の原因も考えられますが、アメリカは夜間に雲の影響をより受けやすい気候条件なのかもしれません。
複雑な気候科学の中でも、雲が気候変動にどのような影響を与えているかはさらに複雑で不確かな要素が少なくないため、今後さらに研究が進むことが期待されます。
【参照】
Record Warm Nighttime Temperatures: A Closer Look|Climate Central
Daily Minimum Temperatures Are Rising Faster Than Daily Maximums|Decoded Science
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