温暖化が一部の異常気象を激化・増加させているという研究結果

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  米海洋大気局(NOAA)が発表した研究論文「気候から読み解く異常気象2014年度版」によると、32の科学者グループが研究を行った2014年に世界で起こった異常気象28件のうち、半数の14件が気候変動の影響を受けており、残りの半数からは気候変動の影響が見られなかったとのことです。

  NOAAによるこのレポートの発表は、今回で4年目と、研究分野としては大変若く、気候変動の影響を測る方法が確立されておらず、単純にコンピュータモデルで実際に起こった異常気象と、気候変動が関連していない場合とを比較しているため、不確かな要素は多いそうです。
  これらの研究では、コンピュータモデルを2つ用意します。ひとつは、化石燃料を燃やしていない世界のモデル、もうひとつは化石燃料を燃やしまくっている現実世界のモデルです。そして、両方のモデルを何千回、何万回、何百万回と走らせます。そうして得た結果から統計的に有意な傾向があるかどうかを調べて、結論を導き出します。

  論文に掲載された研究の主な結果は以下の通りです。

北米
・ カリフォルニアの山火事については、人為的温暖化によって山火事や野火が起こる確率は上昇しているものの、2014年の山火事に関しては、気候変動の影響が見られなかった。
・ 米中西部の北部で起こった厳しい冬の寒さは、気候変動の影響で起こる確率が20分の1から100分の1まで下がっている中で起こった。
・ 米東部の気温低下は、気候変動の影響を受けていない。また、米東部の冬の気温のバリエーションは小さくなってきた。
・ ハワイの熱帯低気圧は、人為的気候変動による増加が見込まれる。
・ 2013年末から2014年にかけて北米の大半を襲った冬の嵐は自然変動によるもので、人為的気候変動の影響ではない。
・ カナダ南東部の洪水は、気候変動と土地利用の両方が影響を与えた可能性が高い。

南米
・2013年12月に起こったアルゼンチンの熱波は、人為的温暖化によって5倍起こりやすくなっていた。
・ブラジル南部の水不足は、気候変動の影響ではなく、人口増加と水の消費量増加が原因とみられる。

ヨーロッパ
・ 2013年末から2014年の冬に英国諸島を襲った記録的な暴風は、人為的な海洋温暖化によるものではなかった。
・ イギリスの冬の異常な降雨は人為的気候変動の影響は見られなかった。
・ ヨーロッパを襲った強いハリケーン「ゴンサロ」からは、気候変動の影響は見つからなかった。
・ フランス南部のセヴェンヌ山脈の異常な降雨は、気候変動の影響で1950年と比較して3倍起こりやすくなっている。
・ 人為的気候変動によって、ヨーロッパ、太平洋北東部、大西洋北西部が記録的な暖かさになる可能性が高くなっている。

中東/アフリカ
・ 2つの研究で、アフリカ東部の干ばつは気候変動の影響を受けて厳しさを増したと結論づけられている。
・ 2014年に中東で起こった干ばつと気候変動の関連性は明確ではないが、シリアの南レバント地方の干ばつは、気候変動の影響が見られた。その他の中東全体をカバーした研究では、 気候変動の影響は見つからなかった。

アジア
・ 朝鮮半島と中国の猛暑は、気候変動の影響によるものであると考えられる。
・ アジア、中国、シンガポールの干ばつからは、人為的気候変動の影響は見つからなかった。
・ 太平洋西部の熱帯低気圧の活発化の大部分は、自然変動によるもの。
・ インドのジャカルタで起こった破壊的な洪水は、気候変動とその他の人間活動の両方の影響を受けて頻繁に起こるようになっている。
・ ヒマラヤの冬の猛吹雪は、気候変動によって起こる確率が増加している。
・ 西部熱帯太平洋と太平洋北東部の極端に高い海面温度は、人為的気候変動によるものである可能性が高い。
・ 4つの独立した研究結果が、2014年にオーストラリア各地で起こった熱波は人為的気候変動によって、発生する確率と厳しさが増していると指摘している。
・ 人為的気候変動の影響を受けて起こったオーストラリア南部の異常な気圧の差が、霜や低地での降雪、降雨量の減少に繋がった可能性が高い。
・ 人為的温暖化によって、2014年7月にニュージーランドを襲った豪雨のような現象が起こる危険性が高くなっている。

南極
・ 観測史上最高を記録した2014年の南極の海氷は、南極大陸から吹き付ける冷たい強風が沿岸から離れた場所まで影響を及ぼしていることによるものだが、このような現象は気候変動によって起こりにくくなってきている。

  全体的にまとめると、熱波や高温など、気温だけが関連する異常気象については、ほぼ人為的気候変動の影響を受けていると結論づけられていますが、水循環関連の異常気象(干ばつや降水、洪水など)からは、気候変動の影響があったと結論づけることができない傾向が高いようです。

  これは、水循環が複雑で、気候変動以外にも様々な要素(人口や水の消費量、地下水の量や地形など)が影響を与え合うため、それぞれのシグナルが見えにくくなっていることも考えられます。今後研究が重ねられれば、不確かな部分が次第に明確になっていくと思われます。

  また、このレポートの中で「気候変動の影響は見つからなかった」と結論づけられている異常気象も、「見つからなかった」「見つけることができなかった」という結果になりましたが、本当に人為的温暖化の「影響がなかった」のかどうかはわかりません。

  これまでにも述べてきたことですが、気候科学は気候の長期的な傾向を見るため、本来ひとつの独立した気象現象が気候変動によるものかどうかを結論づけるのは大変難しく、今回の研究でも、気候変動の影響で「起こりやすくなっている」「厳しさが増している」と結論づけている気象現象はありますが、「気候変動が原因で起こった異常気象」はひとつもありません。そう言い切るのは不可能なのです。

  国立大気研究センターのケビン・トレンバース氏は、「人間は地球の気候そのものを変えてしまった。それなのに、ひとつひとつの異常気象に人間活動が影響しているかどうかを結論づけるのは深刻な見当違いだ。」とコメントしています。
  これも以前から言っていることですが、産業革命以降に人間が大気中にばらまいた温室効果ガスによって、気候システム自体が産業革命前のそれとは大きく変わってきています。私たちはすでに十分すぎる影響を気候に与えており、それがベースになってすべての気象現象が起こっているのです。

  どんなに研究を重ねて、どれだけ気候科学が確かになっても、「独立したひとつの異常気象の原因が人為的気候変動である」と言い切ることは不可能です。でも、「すべての異常気象に人為的気候変動がある程度影響を与えている」と言うことは可能だと私は思っています。

  今後もこのレポートは毎年発表されると思われますが、レポートが伝えるのはあくまでも人為的気候変動の影響で異常気象が起こる「頻度の変化」と「深刻さの程度」になります。

  レポートの執筆者のひとりであるNOAAの科学者、ステファニー・へリング氏は、「日常生活に気候変動がどのような影響を与えているかを、人々が感じる手助けになることを願っています。」と語っています。

  このレポートが、気候変動によってどの時期に、どのような条件が揃ったときに、どれくらいの規模で、どのような異常気象が、どれくらいの頻度で、どのような場所で起こるのかを予想して、被害を未然に防ぐための指標となるくらいまで熟成し、政策作りに関わる人たちだけでなく、より多くの人々に知られていけば、自分たちの生活が異常気象に影響を与えているかもしれないと考える人が増えてくるでしょう。

  気候変動問題が他人事ではなく、自分の生活と繋がっていると認識すること、自分の個人的な問題になることが、気候変動対策を最も加速させる近道だと思います。

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