地球温暖化「ハイエタス」って何?

  ここ数年、地球温暖化に懐疑的な人たちが「ハイエタス(停滞現象)」という言葉を使うことが多くなりました。最も多い主張は、「1998年以降、温暖化が止まっている」というものです。

  この主張はいったい何が根拠なのでしょうか?そして、これは科学的に正しい主張なのでしょうか?

  この主張が声高に叫ばれるようになったのは、2013年に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書に、1998年から2012年までの15年間の気温上昇速度が、それ以前と比較して鈍化していると書かれていたことに起因するといわれています。

  日本語版の報告書から該当部分を引用してみましょう。

過去 15 年間の気温の上昇率(1998~2012 年;10 年当たり 0.05[-0.05~+0.15] ℃)は、1951 年以降の変化傾向(1951~2012 年;10 年当たり 0.12 [0.08~0.14] ℃)より小さい。

  1998年から2012年までの気温上昇率は、10年当たり0.05℃、1951年から2012年までの0.12℃と比較して鈍化しているとしています。しかし、これには続きがあって、なぜそうなるのかが説明されています。

短期間における変化傾向は不確実で、期間の始めと終わりの年の選び方に非常に敏感である。例えば、1995 年、1996 年、1997 年の各年から始まる 15 年間の変化傾向は、それぞれ10 年当たり 0.13 [0.02~0.24] ℃、10 年当たり 0.14 [0.03~0.24] ℃、10 年当たり 0.07 [-0.02~0.18] ℃である。

  上の引用部分をグラフで見比べてみると、イメージしやすいかもしれません。グラフ(1961年以降の世界の平均気温の偏差)は、米海洋大気局(NOAA)の"Climate at a Glance"のプロット機能を用いて作成しました。IPCCの報告書とは使用しているデータと、偏差の基準となる平均気温を算出する期間が違うため、偏差にも若干の違いがあります。偏差は、1901年から2000年までの平均気温を元に算出されています。

Global Temp Anomaly with 1998-2012 trend line.jpg
1998年から2012年までの15年間。気温上昇率は10年当たり+0.08℃

Global Temp Anomaly with 1995-2009 trend line.jpg
1995年から2009年までの15年間。気温上昇率は10年当たり+0.14℃

Global Temp Anomaly with 1996-2010 trend line.jpg
1996年から2010年までの15年間。気温上昇率は10年当たり+0.16℃

Global Temp Anomaly with 1997-2011 trend line.jpg
1997年から2011年までの15年間。気温上昇率は10年当たり+0.09℃

  エルニーニョ現象の影響で気温が高かった1998年と、エルニーニョ現象が始まった1997年を始点にした15年間の気温上昇率は低くなっていますが、それ以前の2年を起点にすると、過去50年間における10年当たりの気温上昇率(+0.16℃)とほぼ同じです。

Global Temp Anomaly with 1999-2013 trend line.jpg
1999年から2013年までの15年間。気温上昇率は10年当たり+0.12℃

  また、上のグラフのようにエルニーニョ現象の翌年を始点にすると、10年当たりの気温上昇率は+0.12℃と、1998年を始点にした+0.08℃よりも大幅に上昇しています。

  このように、同じ15年という期間を違う年を始点にして切り取ると、まったく違う結果になることも報告書では説明しているのですが、主張したいことに対して都合のよい部分だけを切り取って使われているようです。

Global Temp Anomaly with 1985-2014 trend line.jpg
1985年から2014年までの30年間。気温上昇率は10年当たり+0.16℃

  ついでに、「気候」として適切な期間、直近30年間(1985年から2014年)における、10年当たりの気温上昇率も見てみると、+0.16℃と、過去50年間と同じ傾向が続いていることがわかります。

  この「ハイエタス」の主張にはおかしい点がいくつかあって、まず「15年」という短い期間は「気候」と呼ぶにふさわしくありません。15年間での変化は、長期的傾向ではなく、短期的な変動に当たります。

  次に、1998年を始点とすることはとても恣意的で、たとえ短期間においての変動を見るにしても、適切ではありません。なぜなら、1998年は21世紀以前で唯一観測史上暑かった年のトップ10(1998年は今年を除いて観測史上6番目に暖かかった年)に入っている、史上最も強いエルニーニョ現象が起こった異常に暑い年だからです。

  このように、長期的傾向とは逆の現象が起こっているように見せるために、故意にデータの特定の部分を切り取る行為は「チェリーピッキング」と呼ばれ、科学的な態度とはいえません。

  気候変動の科学は、特に近年、短期的変動(自然変動も含めて)が顕著になっていることから、10年や15年という短い時間で起こっている原因がハッキリしない「ハイエタス」や「北極の温暖化と北半球の異常気象の関連性」のような現象について、活発な研究が行われています。

  「15年間気温上昇の速度が落ちてきているようだ」という発見があった場合に科学者が考えるべきことは、「ほれみろやっぱり温暖化してへんやん」ではありません。「なぜ?」「余剰熱は地球のどこに蓄えられてるのか?」と疑問を持ち、原因を突き止めることです。

  ここ数年相次いで発表されている「ハイエタス」に関する研究結果について、別の記事でまとめる予定です。

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