注)この記事は訂正/編集されています。
フランスのパリで「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」が始まりました。これから2週間、活発な議論が交わされる中で、ニュースメディア等で「2℃」という言葉が頻繁に出てくると思います。
以前になぜ気温上昇を2℃以内に抑えなければならないのか、気温が2℃上昇するとどうなるのかについての記事を書きましたが、今回は2100年までの気温上昇を2℃以内に抑えることが可能なのかどうかについて触れてみたいと思います。
まず、気温上昇を2℃以下に抑えるためには、二酸化炭素濃度の上昇を一定の値以下に抑える必要があります。
Credit: The National Academies
上の表の2℃の値を確認すると、370ppmから540ppm、最良の推定値として430ppmになっています。現在の二酸化炭素濃度が400ppmなので、あと30ppm以内の濃度上昇に抑える必要があるということになります。
では、見方を変えて、これまでの二酸化炭素排出量と、2℃以内に気温上昇を抑えるためにあとどれだけの二酸化炭素を排出できるのかを見てみましょう。
Credit: The National Academies
グラフの2℃の値を見ると、炭素の排出量を約1,100ギガトン(1,100GtC=4,030GtCO2←炭素排出量を二酸化炭素排出量に換算)以下に抑えることができれば、気温上昇を2℃以内に抑えることができます。黒いバーは炭素循環と二酸化炭素に対する気候の感受性による誤差の範囲を示しています。
これまでに排出された炭素の総量は、このグラフ(2011年当時)で500GtC(1,832GtCO2)を超えたところで、現段階では600GtC(2,198GtCO2)に迫っています。
つまり、2100年までの気温上昇を2℃以下に抑えるために私たちが排出できる炭素の量は、残り約500GtC(二酸化炭素排出量は1,832GtCO2)ということになります。
わかりやすくするために、単純に500GtC(1,832GtCO2)を2100年までの年数(85年)で割ってみると、約6GtC(21.6GtCO2)になります。グラフの誤差上限(残り1,000GtC [3,664GtCO2]の排出)では、1年当たり約12GtC(42.9GtCO2)の排出量に抑える必要があります。
では、現在の世界の1年当たりの二酸化炭素排出量はどれくらいなのでしょうか?
Credit: ThinkProgress
グラフは、IPCCのシナリオ別の二酸化炭素排出量を表しています。ここ数年、世界の二酸化炭素排出量は約32GtCO2と推定されており、グラフで2014年の排出量の見積りを見ると、最悪のシナリオに(RCP8.5)沿って排出量が上昇を続けています。
このまま何も対策を施さずにいると、年間30GtCO2としても、2100年までに2500GtCO2を超える二酸化炭素を排出することになり、それでは気温が4℃から5℃上昇してしまいます。このまま何も対策を施さずにいると、年間30GtCO2としても、2100年までに2500GtCO2を超える二酸化炭素(682GtCを超える炭素)を排出することになり、これまでの排出量と合わせるとおよそ4700GtCO2(1280GtC)に達します。2つ上のナショナルアカデミーのグラフを見ると、排出量が1280GtCの場合、気温上昇が2℃を超える可能性が高くなります。
ただし、国際エネルギー機関(IEA)によると、2014年の世界の二酸化炭素排出量は前年と変わらず32GtCO2だったそうなので、最悪のシナリオよりは若干下がっているようです。
また、研究によっては過去の排出量の見積りや気温上昇を2℃以内に抑えるために排出できる二酸化炭素の量が違うため、ハッキリとしたラインを引くことはできませんが、現在の排出量と、これから85年間で排出できる量を比較すると、どれだけ難しいことなのか想像できるのではないでしょうか。
しかし、不可能な数字ではありません。数字だけを見ると、二酸化炭素排出量を2050年までに80%削減することなどできないように感じるかもしれませんが、これから数十年の間に、テクノロジーが著しい進化を遂げ、大幅な排出量の削減や、もしかすると大気や海洋から二酸化炭素を取り出して別の場所に貯蔵することが可能になるかもしれません。一時しのぎに過ぎませんし、テクノロジーの進化を前提に気候変動対策を進めるのは賢明ではありませんが、ありとあらゆる努力を重ねる以外に、2100年までの気温上昇を2℃以下に抑える方法はないでしょう。
【訂正】
2016-02-13: 「二酸化炭素排出量(GtCO2)」と「炭素排出量(GtC)」を間違っていた箇所を訂正しました。「炭素排出量」が正しい場合は、二酸化炭素排出量相当(GtCO2)を併記しました。炭素排出量から二酸化炭素排出量への変換は、炭素原子(C)と酸素原子(O)の質量を基に計算してあります。炭素は12.01グラム、酸素は16グラムなので、二酸化炭素(CO2)は12.01+16×2=44.01グラム。44.01÷12.01≒3.664なので、GtC×3.664=GtCO2になります。
2019-02-26: 二酸化炭素排出量(GtCO2)と「炭素排出量(GtC)」を混同した結果、内容に誤りがあった部分に字消し線を入れ、訂正文を追加しました。
【関連記事】
【参照】
Climate Stabilization Targets: Emissions, Concentrations, and Impacts Over Decades to Millennia (2011)|The National Academies
この記事へのコメント
k.matsumoto
日本語の情報だとWEB上では質のいいものが少ないので、貴重なブログだと思っています。
一点、この記事で気になった点がありましたので質問です。
「このまま何も対策を施さずにいると、年間30GtCO2としても、2100年までに2500GtCO2を超える二酸化炭素を排出することになり、それでは気温が4℃から5℃上昇してしまいます。」
とありますが、これは誤りではないでしょうか。一見して、RCP6を下回る総排出量で4℃から5℃の気温上昇は少なくともIPCCの見解とはかけ離れています。これは、2500GtCの場合であれば考えられる数値なので、おそらく本稿を訂正されたときに訂正し忘れたのではないかと思いますが。。。
要らぬ誤解を生まないためにも、今後ともなるべく正確な記事を期待しています。
Ken
コメントありがとうございます。ご指摘くださった部分ですが、Matsumotoさんの仰るとおり、前回訂正した際に取りこぼしていました。GtC換算分を併記して、訂正した文を追記しました。内容については何度もチェックしてから投稿していますが、ひとりの目で校正するとチェックできない部分が出てきてしまうので、ご指摘くださってとても助かりました。
今後もよろしくお願いします。ありがとうございました。