地球温暖化「ハイエタス」は本当か?

  地球温暖化の「ハイエタス」について記事を書きましたが、近年はこの「ハイエタス」に関する研究結果が相次いで発表されるようになりました。

  主な研究結果では、太平洋や大西洋の海水が熱を取り込んだため、気温上昇が鈍化しているとするものや、統計学的に見れば「ハイエタス」と呼べるような気温上昇の停滞は存在しないとするもの、短期的な変動は過去にも起こっており、「ハイエタス」と呼ばれているものはよくある変動のひとつでしかないとするものなどがあります。

  まず、地球温暖化というのは、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加が原因で、地球に入ってくる「熱」が地球から出ていく「熱」よりも大きくなることによって起こり、この「熱」が大気に蓄えられると気温が上昇します。

  多くの人は、この気温の変化だけを見て、地球が温暖化しているかどうかを判断しようとします。気温が上がれば温暖化、気温が下がれば寒冷化、気温の上昇速度が落ちれば「ハイエタス」と呼ばれます。

  では、「熱」が最も多く蓄えられている場所はどこでしょうか?地球の表面積の約70%を占める海洋が、地球上の熱の約90%を取り込んでいます。

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地球の気候システムの各構成要素が蓄積したエネルギー量(Credit: 気象庁

  IPCCの第5次評価報告書によると、1971年から2010年までの40年間で増加した地球のエネルギーのうち、60%が深さ700m未満の海洋の表層に、30%が700mよりも深い場所の海水に蓄えられたと見積もっています。図を見ればわかるように、「ハイエタス」が始まったとされる1998年以降も、海洋の蓄えたエネルギー量は増加を続けています。

  2012年に発表された研究(Nuccitelli et al. 2012)でも、同様の結論になっています。

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  上のグラフの赤い部分は、陸地と大気と氷(海氷や氷床)が吸収した地球の熱、濃い青は海洋の水深700メートルから2000メートルの場所が蓄えた熱、そして薄い青は深さ700メートルまでの海洋が蓄えた増加分のエネルギーです。このグラフでも、地球の熱容量は1998年以降も増加を続けていることがわかります。

  また、別の研究(Foster and Rahmstorf 2011)では、5つの気候データからエルニーニョ・南方振動(ENSO)、太陽活動、火山活動の短期的な自然変動のシグナルを取り除き、人間活動による平均気温の上昇を割り出しています。

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  その結果、1979年から2010年までの気温上昇率が10年当たり+0.163℃であるのに対し、1998年から2010年までは10年当たり+0.155℃の上昇率、2000年から2010年までの気温上昇率は0.187℃と、1998年以降気温上昇が加速しているという結果になりました。

  2014年に発表された研究(England et al. 2014)では、赤道太平洋を東から西へ流れる貿易風がここ20年通常よりも強く吹いている影響で、西太平洋の海洋表層が大気から余分に熱を取り込み、気温上昇の速度が鈍っているとされています。ただし、同研究では、貿易風の勢いが弱まり、通常通りの強さに戻った場合、これまでに海洋表層に蓄えられた熱が大気中に放出され、そうなれば気温上昇は加速することになると指摘しています。

  Thomas et al.(2015)では、従来の地表気温と海洋表層の水温のデータの不足やバイアスを補正(特に海面水温の過去データにおける統計的誤差を補正)した結果、ハイエタスと呼ばれる期間も含め、2001年から2014年までの気温上昇率は、20世紀後半の50年間と比較して下がっていないと結論づけています。

  つい最近発表された研究(Lewandowsky et al. 2015)では、米海洋大気局(NOAA)や米航空宇宙局(NASA)などのデータを用いず、40に及ぶピアレビューされた文献を調査したところ、「ハイエタス」と呼ばれる短期的な変動(気温上昇の鈍化)は、長期的な気温上昇傾向の中に散りばめられており、気温が0.6℃上昇するために要した期間の3分の1が「ハイエタス」に該当するとしています。また、「ハイエタス」そのものがただの短期的な変動に過ぎず、過去30年間のうち任意の連続する17年を切り取れば、ハイエタスに該当するような変動は見られず、長期的には気温上昇が続いていると指摘しています。

  これらの研究結果が示しているのは、長期的傾向としての気温上昇、温暖化は鈍ることなく続いているということと、地球の気候システムはいくつかの研究結果だけで結論づけることができるほど単純ではないということです。

  いずれにせよ、15年などという気候と呼ぶには短い期間に起こっている変動だけで温暖化が停滞している、止まったと結論づけるのは近視眼的で科学的ではありません。気候変動については、小さな変動の要因を研究することで、より正確な長期的傾向の把握に繋げていくことが大切です。

  何が主な原因で、増加を続ける熱がどのようにしてどこに蓄えられるようになったのか、そしてそれはいつまで続いて、その後どうなると予測されるのかが次第にハッキリしてくるはずです。今後もさらにこの分野の研究が進むことが期待されます。

【参照】
Nuccitelli, D., Way, R., Painting, R., Church, J., & Cook, J. (2012). Comment on “Ocean heat content and Earth's radiation imbalance. II. Relation to climate shifts”. Physics Letters A, 376(45), 3466-3468.
Foster, G., & Rahmstorf, S. (2011). Global temperature evolution 1979ー2010. Environ. Res. Lett., 6(4), 044022. doi:10.1088/1748-9326/6/4/044022
England, MH, McGregor, S, Spence, P & Meehl, GA. Recent intensification of wind-driven circulation in the Pacific and the ongoing warming hiatus. Nature Climate  … (2014). doi:10.1038/nclimate2106
Karl, T. R. et al. Possible artifacts of data biases in the recent global surface warming hiatus. Science aaa5632 (2015). doi:10.1126/science.aaa5632
Lewandowsky, S., Risbey, J. & Oreskes, N. On the definition and identifiability of the alleged ‘hiatus’ in global warming. Sci Reports 5, (2015).

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