各国首脳によるスピーチなどの話題性のある大きなイベントが終わり、「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」は地味な交渉期間に入りました。
歴代のCOPに参加しているある国の代表は、気候変動会議の交渉について「悪者が登場して何もかもを壊していこうとするが、ギリギリのところで参加国が力を合わせてそれを阻止し、合意に持ち込むのが通常のパターン」と話すほど、交渉が順調に進んだことはありません。
いつも通りであるとするならば、今回も最終日が延期され、不眠不休の各国代表や首脳級の面々が疲れ果てた顔で閉会の瞬間を迎えることでしょう。
ここ数年は、気候変動の影響によって途上国で起こる経済的及び非経済的な損失と被害について活発に議論(というか罵りあいに近い)が行われてきましたが、まだすべての国が合意するところまで煮詰まっていません。
この「ロス&ダメージ(損失と被害)」は、「温室効果ガス排出量の削減などの気候変動に対する適応策を講じたにも関わらずもたらされる損失や被害」のことを指します。この損失や被害はハリケーンや洪水など突発性の気象現象によるものや、海面上昇などの時間をかけて起こる現象によってもたらされる人的被害及び環境への被害を含み、経済的損失・被害及び非経済的損失・被害(商業取引されないものに対する損失と被害)に区分されます。
気候変動の損失と被害の原因を作り出してきたのは、今さら言うまでもなく、欧米や日本を始めとする先進諸国です。そしてその被害を最も受けてきたのは、途上国、特に後発開発途上国(LDCs)と呼ばれる国々です。異常気象等による経済的被害は先進国の方が多いにもかかわらず、死者などの人的被害は途上国の方が多く、気候変動に対する脆弱さがわかります。
途上国にもたらされる「ロス&ダメージ(損失と被害)」の救済を目的に、この概念や適応範囲などをハッキリさせるために議論が進められてきたのですが、現段階では、枠組みの中で共通の定義付けすらされていない状況です。
特定の気象現象にどの程度気候変動が寄与しているのかをハッキリできるほど、気候科学のその分野がまだ成熟していないこともありますが、何よりも先進国側がハッキリさせたくないというのが正直なところだと思います。なぜなら、一度定義付けがなされて基準が作られると、今後途上国で起こる異常気象による被害に対する補償は莫大なものになると容易に想像できるからです。
先進国側は途上国に対し、2020年までに年間1千億ドル(約12兆3千億円)の資金援助を2009年にコペンハーゲンで開催されたCOP15で約束していますが、それ以上の資金援助については難色を示しており、この約束についてもどの国がいくら拠出するのかすらハッキリしておらず、途上国側を苛立たせる原因になっています。
約160ヶ国がすでに提出した「Intended Nationally Determined Contributions (INDCs)/各国が自主的に決定する約束草案」と呼ばれる気候変動対策の目標を達成しても、2100年までに気温が2.7℃上昇するといわれています。英オックスファムによる試算では、気温が2.7℃上昇した場合、途上国が気候変動に適応するために必要な額は年間約7900億ドル(約97兆円)にのぼり、気温が2℃上昇した場合の年間約5200億ドル(約67兆円)の約1.5倍の費用が必要になるそうです。
つまり、先進国側が2009年にコペンハーゲンで約束した1千億ドル(約12兆3千億円)では最初からまったく足りないのです。だからこそ、これ以上資金援助を増やしたくない先進諸国は、途上国からの「ロス&ダメージ(損失と被害)」による救済についてハッキリさせたいという度重なる要求を拒否し続けているのです。
COP21最終日の最後の瞬間まで、先進諸国と途上国の駆け引きが繰り広げられるのは間違いありませんが、加害者側が主導権を握る展開を変えない限り、どのような合意に達しても、途上国で気候変動の影響を最も受けている人たちが満足できるレベルで救済されることはないでしょう。
それを変えるためには、この「ロス&ダメージ(損失と被害)」についての取り決めを、先進諸国と途上国間でしっかりと交わす必要があるのです。先進諸国が気候変動の原因を生み出した責任から逃れることを許してはなりません。
散らかした人が責任を持って片付ける。とても簡単なことです。
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