温暖化の深刻さを知りながら排出規制を妨害し続けたエクソンモービル社の罪

  米政府が初めて気候科学者から地球温暖化の深刻さを警告されてから50年が経ちました。結果だけを見ればほぼ気候変動対策を講じることなくここまできてしまいましたが、その間米政府や米議会は何もしようとせずに過ごしてきたわけではありません。

  気候変動対策として二酸化炭素排出量を規制されては困る世界で最も裕福な石油産業界が、その富を利用して気候変動対策を停滞させてきました。

  ピューリッツァー賞を受賞したことがある米環境系メディア「インサイド・クライメート・ニュース」が、1960年代から長年に渡って気候変動対策を妨害し続けたエクソンモービル社について特集を組み、社内の科学者たちによる度重なる警告を無視し、気候科学が不確かなものであるというキャンペーンを繰り広げ、政界や世論に多大な影響を与えてきた同社の妨害行為の詳細を伝えています。

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  上のタイムラインは、エクソンモービル社の科学者たちが、米政府の環境関連のミーティング等に参加していたことを表したものです。1980年代前半には、化石燃料の燃焼による二酸化炭素排出が気候に深刻な影響を与えることに疑問を持つ科学者は社内にいませんでした。
  1985年には、社内の科学者間で、2000年までに産業革命前よりも気温が約1℃上昇し、2100年までにさらに2℃から5℃上昇するという予測が共有され、エネルギー省が出版した二酸化炭素の気候に与える影響についてのレポートにエクソンモービル社の科学者たちがその予測を寄稿しています。

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  上の図は、1970年代から80年代にかけて、エクソンモービル社の科学者と管理者、経営陣が議論を交わした気候変動のコンセプトとその影響についてまとめたものです。氷(氷床や海氷)が減少してアルベドが小さくなる(太陽エネルギーを反射できなくなる)ことによる温暖化の加速、炭素循環、地球規模の海面上昇、降雨パターンの変化、地球規模の農業への影響の深刻化、健康への影響、食糧問題が引き金の移民の増加、有害生物と雑草の増加などがディスカッションのトピックになっていました。つまり、エクソンモービル社の内部では、1970年代から温暖化とその影響について共通認識があったということです。

  しかし、エクソンモービル社の経営陣は、自社の科学者の指摘を無視し、利益重視の路線をとりました。そのためには、大半の気候科学者が合意形成している「気候科学」そのものに疑いをかける必要がありました。そこで、気候科学のあらゆる「不確かさ」に焦点を当て、一大キャンペーンを繰り広げたのです。

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  上の画像は、エクソンモービル社が気候科学の「不確かさ」を誇張して伝えるために行ったキャンペーンの一部で、一般市民の気候変動に対する見解を操作するために、これらの記事が新聞に掲載されました(ちなみに、このような気候科学に疑念を投げかける内容の新聞記事の掲載は現在も続けられています)。

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  上のイラストでは、気候変動の科学に対するエクソンモービル社の科学者と経営陣の見解について、コメントを横に並べて比較しています。この下に、いくつかのコメントを上下に並べて訳してみましょう。

ジェームズ・ブラック(科学者/1978年)「化石燃料燃焼が原因の二酸化炭素排出によって、人類が地球規模で気候に影響を与えているという基本的な科学的合意形成がなされている。」
リー・レイモンド(CEO/1997年)「人間活動が地球規模の気候に顕著な影響を与えているかどうかについて、現段階の科学的証拠で結論づけることはできない。」

  1978年の時点で、化石燃料の温暖化に対する影響について科学的な合意形成がなされているという科学者の主張に対し、その約20年後になってもエクソンモービル社のCEOは科学的証拠があるわけではないという見解を示しています。

ロジャー・コーヘン(シニア科学者/1982年)「科学界では、気温上昇によって地球規模の気候への顕著な変化がもたらされ、雨量分布や生物圏の変化などが起こるという満場一致の合意がなされている。」
ブライアン・フラナリー(エクソン気候科学者/2002年)「大きな失望を感じるのは、IPCCがバイアスを元に科学的な不確かさを軽視していることだ。」

  ブッシュ政権当時には、社内の気候科学者も積極的に「不確かさ」を誇張し、エクソンモービル社のキャンペーンを手助けするようになっていました。

ジェームズ・マッカーシー博士(米国科学振興協会/2007年)「ここ数年でハッキリしてきたのは、ブッシュ政権に任命された者たちと世界最大の企業であるエクソンモービル社に資金提供を受けている組織のネットワークが、気候変動問題の現実や緊急性についてアメリカの一般市民を混乱させるために、気候に関する科学を歪曲して伝え、操作し、揉み消し、強い気候変動対策がなされることを未然に防ごうとしてきたことだ。」
ケン・コーヘン(広報・政府業務担当責任者/2015年)「エクソンモービル社は、これまで常に論理的に正しい科学に基づいた公共政策を支持してきた。今後も、我が社に対する根拠がなかったり不正確な主張などに基づく批判を受けても、その姿勢を続けていく。」

  マッカーシー博士はエクソンモービル社の科学者ではありませんが、根拠に基づいている気候変動の科学に対し、「不確かさ」を誇張して疑念を抱かさせるようなキャンペーンを展開してきたエクソンモービル社側が、科学会や環境保護団体等から根拠のない不当な批判を受けているかのように振る舞ってきた様子がわかります。

  このように、エクソンモービル社は1960年代から70年代にかけて、気候変動の存在と化石燃料による二酸化炭素排出がもたらす影響の深刻さを知りながら、気候変動対策が進まないよう、一般国民の気候変動に対する意見と政界をコントロールしてきました。インサイド・クライメート・ニュースによるスクープをきっかけに、ニューヨーク州の検事総長が、国民と投資家に対してエクソンモービル社が意図的に嘘をついてきたかどうかについて捜査を開始しています。

  もしも世界最大の多国籍石油企業であるエクソンモービル社が1970年代から気候変動対策の妨害をせずに協力していたなら、まったく違う世界を未来に残すことができたはずです。エクソンモービル社は、社会的責任を問われるべきだと思います。

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