最終日を迎えた「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」は、合意案を巡り、いつも通り会期を延長し、現地時間12日午前9時に最後の草案が各国に配布される予定です。
そして、その最終草案に、2100年までの気温上昇の目標値となるのかどうかはまだ不明ですが、島しょ国を含む後発開発途上国に配慮し、何らかの形で「1.5℃未満」が記されることになったようですが、聞こえてくる話では、目標はあくまで「2℃未満」で、「1.5℃未満」については言及するだけのようです。
なんやそれ。意味わからん。
COP21参加国のほとんどが提出している「Intended Nationally Determined Contributions (INDCs)/各国が自主的に決定する約束草案」と呼ばれる気候変動対策の目標を各国が達成しても気温が2.7℃上昇すると言われている中で「1.5℃未満」を明記することに疑問を呈する声も聞かれるのですが、果たしてこの「1.5℃未満」は達成可能な数字なのでしょうか?
答えは、限りなく不可能に近いイエスです。2014年のレポートで、世界銀行は「(1.5℃未満の達成は)技術的にも経済的にも実行可能」と述べています。
以前に、2100年までの気温上昇を「2℃未満」に抑えるためには、残り85年間の二酸化炭素排出量を500GtC(ギガトン)以内に抑える必要があると記事に書きましたが、この場合、2050年までにカーボンニュートラル(人間活動によって排出された二酸化炭素が自然な炭素循環内で処理され、大気中の二酸化炭素濃度が上がらない状態)を果たすのが条件と言われています。つまり、2050年までに化石燃料の使用を削減していくということになります。
「1.5℃未満」を目標にした場合、二酸化炭素排出量の削減ペースは2℃未満の場合と大差ないのですが、2030年までにカーボンニュートラルを果たさなくてはならず、急速な化石燃料からの脱却を目指す必要があるため、2℃未満の目標に比べて気候変動対策のコストが50%高くなると世界銀行は指摘しています。
しかし、ノルウェーの「Center for International Climate and Environmental Research(CICERO)」の科学者は、世界各国がINDCに記載した目標通りの二酸化炭素排出量を守った場合、気温上昇を1.5℃未満に抑える(66%以上の確率で気温上昇を1.5℃未満に抑える)ための排出量のラインを2020年までに超えてしまうと指摘しています。
この見積りによると、2030年までに二酸化炭素排出量をほぼゼロにしたうえで、「ネガティブ・エミッション」と呼ばれている、二酸化炭素を排出するのではなく、大気中の二酸化炭素を何らかの方法で取り出し、二度と地表に出てこない方法でどこかに貯蔵するシステムを確立させる必要があります。
「1.5℃未満」にしても「2℃未満」にしても、目標が達成できるかどうかは科学的・技術的な問題ではなく、政治的意思があるかどうかにかかっています。
2050年までに化石燃料から脱却を果たすのか、2030年までに脱化石燃料を果たすのか、(世界ではなく)先進諸国がどちらを選択するのかと言い換えることができるでしょう。COP21では、怖いくらい「脱化石燃料」という言葉が出てきませんでしたし、最終草案のひとつ前の合意案には、「再生可能エネルギー」という言葉が一度しか出てこなかったそうです。
いつまで化石燃料産業を延命させるのかが、COP21とそれ以降の先進諸国のテーマです。アメリカをはじめとする世界で最も裕福な先進諸国が、世界で最も利益を上げ、豊かな資金力を武器に強大な政治的影響力を発揮してきた産業との持ちつ持たれつの関係をどれだけ早く解消することができるのかに、途上国、特に後発開発途上国の人々の運命がかかっていると言っても決して大げさではないでしょう。
残すは1日。「1.5℃未満」という言葉がどのような形で最終草案に明記されるのか、12日の朝を待ちたいと思います。
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