「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」において、195ヶ国が歴史的合意に至り採択した「パリ協定」の目標を達成するには、遅くても2050年までに化石燃料からフェードアウト、もしくは化石燃料が排出する二酸化炭素の量と自然が吸収する二酸化炭素の量が同じになる炭素ニュートラルを達成することが要求されます。
また、パリ協定の中には「ロス&ダメージ」が明記され、途上国が気候変動によって受ける被害を明らかにし、共有する方針が決められました。さらに、緑の気候基金への先進諸国と一部の裕福な途上国からの拠出金の目標額を2025年までは1千億ドル(約12兆円)、それ以降は増額するとされています。
しかし、以前にも書きましたが、英オックスファムの報告によると、途上国が気候変動に適応するためには、1年当たり最大で8千億ドル(約98兆4千億円)が必要になるとされており、このままでは不足することが目に見えています。
このような状況であるにもかかわらず、化石燃料産業に対し、G20全体で税控除や公共投融資などの形で年間4500億ドル(約55兆円)の優遇措置を与えているという調査結果が発表されました。
Credit: Inside Climate News
上のグラフは、G20の中で化石燃料産業への補助総額が大きい上位10ヶ国の総額と内訳(2013年と2014年の平均)を表したものです。中国やロシア、ブラジルなどは国営企業への投資額が多く、アメリカや日本では税控除や投融資の割合が高くなっていることがわかります。
日本の化石燃料産業に対する優遇措置の内訳は、国際公共投融資が190億ドル(2兆3千億円)、税控除が7億3千6百万ドル(約900億円)の総額2兆4千億円となっています。その一方で、 日本は昨年、緑の気候基金に15億ドル(緑の気候基金の換算レートで約1,540億円)を拠出し、COP21の演説において安倍首相が来年度は25億ドル(約2,567億円)の拠出を約束しています。
COP21で化石燃料からの緩やかな脱却の道筋は作られましたが、途上国への気候変動による被害の補償には言及せず、気候基金への拠出を不足が確実視される額にとどめる一方で、化石燃料産業に対しては年間55兆円もの優遇措置を行っている歪んだ現状を変えなければ、パリ協定の目標を達成するのは困難を極めるでしょうし、このような優遇措置を続けるのは、化石燃料がもたらす環境破壊や健康問題などを考慮に入れると、倫理やモラルに反する行為であると言わざるを得ません。
4500億ドル(約55兆円)の税控除や投融資を廃止し、気候基金に拠出すれば、途上国の気候変動への適応を速めることもできますし、脱化石燃料と再生可能エネルギーの普及を加速させることも可能です。それに加えて炭素税を世界的規模で導入すれば、さらに化石燃料からの脱却を速め、新たなテクノロジーを生み出し、気候変動に備えたインフラ整備を進めることもできます。
化石燃料産業への優遇措置をどうするのか、COP21後の世界各国の本気度を計る指標として注視する必要があると思います。
【参照】
Fossil Fuel Subsidies Top $450 Billion Annually, Study Says|Inside Climate News
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