太平洋十年規模振動が温暖化を再加速させる可能性

  2014年は観測史上最高の世界平均気温を記録し、99.999%の確率で今年(2015年)の世界平均気温は昨年を上回ると予測されており、さらに、来年(2016年)は95%以上の確率で今年の平均気温を上回ると言われています。

  今年の平均気温の上昇の大きな原因はエルニーニョ現象であると伝えるメディアが多い印象を受けますが、バックグラウンドで進んでいる温暖化の方が大きな要因であるという分析結果もあります。

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エルニーニョ現象が発生した年、ニュートラルの年、ラニーニャ現象が発生した年、大きな火山噴火が起こった年別に平均気温の偏差を表したグラフ。

  上のグラフを見ると、ニュートラルの年と比較して、エルニーニョ発生時は平均気温が高く、ラニーニャ発生時には低くなる傾向がありますが、それぞれの平均気温の偏差が上昇傾向にあることから、エルニーニョ現象発生時だけ気温が上昇しているわけではないことがわかります。実際に、史上最強のエルニーニョ現象の影響を受けた1998年の平均気温よりも、エルニーニョ発生年ではない近年の平均気温の方が高くなっていることからも、温暖化傾向にあると言えます。

  1997年のエルニーニョよりも少し弱いと言われている今回のエルニーニョ現象ですが、平均気温上昇に与える影響は1997年のそれに引けを取らず、約15年間緩やかになっていた温暖化を再加速させる可能性が高いと言われています。

  その原因になると考えられているのが、エルニーニョ現象とラニーニャ現象のような数年に一度ではなく、太平洋の広範囲で海水温と気圧が約10年の規模で変化する「太平洋十年規模振動(PDO)」です。現在のところ、詳しいメカニズムはまだ解明されていませんが、エルニーニョ現象が引き金になって、PDOが正位相に大きく振る可能性があるといわれています。

PDO Standardized monthly and 9 months mov avg 1980-2015.jpg
Credit: NOAA

  これらのグラフは、月毎のPDOインデックスの偏差と、それを9ヶ月ごとの移動平均にしたものです。正位相から負位相へ、またその逆へというサイクルが繰り返されています。1980年以降のグラフではわかりにくいので、1900年以降のPDOインデックスをグラフ化し、そこに世界の平均気温の偏差を重ねて、何か傾向があるか見てみましょう。

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1900年から2015年10月までのPDOインデックスと世界平均気温の偏差(それぞれ12ヶ月の移動平均)を比較。棒グラフがPDOインデックス。折れ線グラフが世界平均気温の偏差。データはPDOインデックスがワシントン大学 Joint Institute for the Study of the Atmosphere and Oceanより。世界平均気温の偏差はNOAAより。

  直近約35年分よりも、「十年規模振動」と呼ばれる理由が表れているのではないでしょうか。1970年代後半から、PDOインデックスが正位相に大きく振るのと時を同じくして、平均気温が上昇しているのがよくわかります。

PDO vs Temp Anomalies 1981-2015 mov ave int 12 months.jpg

  これは、先ほどのグラフの1981年以降に焦点を当てたもので、平均気温の偏差の範囲を変え、PDOインデックスと平均気温の変化の関連性を見やすくしてあります。平均気温の上昇と低下に影響を与えているのがPDOだけではないため、重なり合わない部分もありますが、インデックスが正の値のときには気温が上昇し、負の値のときに気温が下降気味になるケースが多く見られます。

  1982年と1997年の過去最強と言われているふたつのエルニーニョ現象発生時と、PDOインデックスの正位相が重なっていることと、今回のエルニーニョもPDOインデックスが正の時期に発生していることから、PDOとエルニーニョが相関関係にあるのではないかと推測できます。1982年のエルニーニョの後は、1988年後半まで正位相が続き、エルニーニョ後に一度下がった平均気温が、1987年から1988年にかけての勢力が強くないエルニーニョ発生時に大きく跳ね上がっています。

  ただし、1997年のエルニーニョ発生後、PDOインデックスは早い段階で負位相に振っており、PDOインデックスが正の時期に入って起こった今回のエルニーニョ現象が終わった後も、10年規模でPDOインデックスが正位相を保ち続けるかどうかはわかりません。最近の例では、2002年から2004年にかけて26ヶ月間続いた正位相が予想に反して負位相に戻ったことがあり、現段階では見通しは不透明です。米国立大気研究センターのケビン・トレンバース氏は、PDOインデックスがこのまま正位相を保ち続ける確率は約67%と予想しています。

  また、上のグラフの1998年以降に注目すると、2002年から2004年にかけて26ヶ月間続いた正位相の期間を除いて、緩やかな気温上昇傾向が約15年続いたいわゆる「ハイエタス」と呼ばれる時期と、PDOインデックスが負位相だった時期が重なっており、気温とインデックスの上下が連動しているように見えます。PDOインデックスが負位相の時期に気温上昇のペースが遅くなったのは偶然ではなく、このまま長期に渡って正位相が継続した場合、太平洋の海洋が取り込んできた熱エネルギーが大気に放出され、温暖化が再び加速するのではないかと考えられています。

  そして、次のエルニーニョ現象が今回を超える強さまで成長し、さらに温暖化を加速させてしまうという最悪の相乗効果をもたらすことが懸念されています。

  ひとつ悪くないニュースがあるとすれば、上のグラフには含まれていない、直近(2015年11月)のPDOインデックスが、今年に入って最も低い値(正位相に移行してから最も高かった値の約3分の1)を示していることですが、過去にも乱高下を繰り返したことがあるので、1ヶ月だけの値で安心することはできません。

  エルニーニョ現象と共に、太平洋十年規模振動の今後の動向が注目されます。

【参照】

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