途上国で約6千万人にエルニーニョの影響が及ぶ可能性

  通常ならば11月から12月にかけてピークを迎え、緩やかに終息に向かうはずのエルニーニョ現象が、今回は12月末になってもなおピークを保ち続けています。

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Credit: NASA

  米航空宇宙局の最新の観測データによると、1997~98年のエルニーニョと比較して、2015~16年のエルニーニョは海水温の高い範囲が広く、終息に向かうタイミングも遅くなっているようです。

  すでに世界中に洪水や干ばつなどの異常気象をもたらしているエルニーニョ現象ですが、専門家たちはエルニーニョによる本格的な影響が現れるのは、2016年に入ってからと警鐘を鳴らしています。

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       エルニーニョが降水量に与える影響
       Credit: IRI

  英オックスファムと国連人道問題調整事務所(UNOCHA)は、アジア、アフリカ、南太平洋諸島、カリブ、ラテンアメリカ諸国でエルニーニョの深刻な影響を受け、食糧危機や水不足、疫病の流行などの対策が必要な人は5,800万人から6,800万人にのぼると報告しています。食糧農業機関(FAO)は、エルニーニョによる被害の25%は農業に関連し、被害総額の84%が干ばつによるものであることから、食糧と水、栄養不足防止に早急な対策が必要と述べています。

  UNONCHAのレポートでは、アフリカ南部で3,000万人とアフリカ東部で2,200万人が食糧危機に陥ると予測しており、また、南太平洋諸島では470万人が干ばつやサイクロンなど、エルニーニョによる異常気象の影響を受けることが予想され、中央アメリカでは420万人がエルニーニョによる深刻な干ばつの影響をすでに受けていると報告しています。

  FAOによるアフリカ、カリブ諸島&ラテンアメリカ、アジア&太平洋地域における、エルニーニョ現象による主な影響は以下の通りです。なお、各地域や各国についての詳細なレポートは、参照先のPDFに記載されています。

アフリカ
・エチオピア: 2016年3月までに約1,500万人が食糧援助を必要としており、この数は2015年11月の820万から大きく増加。
・マラウイ: 干ばつによって生産量が減少したメイズ(トウモロコシ)の価格が1年前より90%高騰し、5歳未満の子どもの47%が栄養失調に陥っている。
・ジンバブエ: 農村人口の約16%(約150万人)が、2016年初頭までに食糧不足に陥る。
・ソマリア: 農作物はすでに洪水による被害を受けており、FAO、政府、非営利団体が洪水の予防措置やプラスチックバッグ配布による農作物保護の措置をとっている。

カリブ諸島&ラテンアメリカ
・グアテマラ: 最高で80%の農作物が干ばつの影響で失われ、その影響は420万人に及ぶ。
・ハイチ: 来春の農作物の収穫量(年間収穫量の約半分)が40%減少する見込み。
・ドライコリドー(乾燥回廊)と呼ばれるエルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグアをまたぐ農村地域の食糧不足と栄養不足予防対策に670万米ドル(約8億円)が必要。

アジア&太平洋地域
・インドネシア: 4,300万人が干ばつと高温が原因の森林火災の煙害の被害を受けており、米の価格が記録的な高さになっている。
・パプアニューギニア: 人口の3分の1(約240万人)が干ばつの深刻な影響を受けている。
・フィリピン: 2016年の3月まで、国土の85%が干ばつの影響を受ける。2015年に直撃を受けた台風コップ(日本における台風第24号)による農作物の被害は180万米ドル(約2億2千万円)に及ぶ。
・フィジー: 干ばつの影響で10月の降水量が平年のわずか10%しかなく、農作物の収穫量が25%減少。

  これらの地域にエルニーニョ現象による異常気象がもたらす深刻な影響が大きく報道されることはなく、国連組織や非営利団体の報告が主な情報源になっていることも、食糧支援や被害軽減対策が進まない原因であると考えられます。

  また、これらの報告書は、昨夏からの被害状況に加え、過去のエルニーニョ現象による被害を基に作成されたものであり、史上最強規模まで発達し、まだ弱まる気配を見せない今回のエルニーニョによる被害がどこまで大きくなるのかは、予測しきれるものではなく、最悪の状況に備えることが必要です。

【参照】

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