ここ数年、「シェールブーム」という言葉をよく耳にするようになりました。アメリカでは、フラッキング(正確にはハイドロ・フラクチャリング/水圧破砕法)と呼ばれる採掘法を用いて、従来の方法では採掘することができなかった層にあるシェールガス/シェールオイルの採取が可能になり、国内の原油生産量が大きく伸び、長年の課題であった原油を輸入に依存する体質が改善され、ついには海外への原油輸出を開始する法案が可決されるまでに至りました。日本にもアメリカから天然ガスを輸入する計画があります。
まずは、いったいフラッキングって何なのか?というところからはじめてみましょう。この採掘法は、シェール層(頁岩層)の岩盤に人工的な割れ目(フラクチャー)を作ってそこに大量の水と化学薬品を流し込んでガス/オイルを採取する技術で、通常は深さ2000メートルから3000メートルの坑井を掘り、そこから水平方向に2000メートルから3000メートルの坑井を掘ることで、従来の原油とは違う場所に閉じ込められているガスやオイルを採掘します。
Credit: 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)。オリジナルはProPublica等に掲載されているAl Grandbergのイラストと思われます。
しかし、シェールブームが盛り上がりを見せ、原油生産量が伸び、電気代やガソリン代が安くなるなどの利点がある一方で、様々な問題が表面化しています。
ここでは、どのような問題があるのかについて触れ、具体的な事例はそれぞれ今後記事にしていく予定です。
Credit: Napa Valley College
1. 大量の水を使用
米環境保護局によると、2010年に約3万5千の油井でフラッキングに使用した水の量は、約700億から1,400億ガロン(約2,650億リットルから5,300億リットル)で、これは40から80の人口5万人の都市が使用する水の量にあたります。そして、これらの水は貯留水や地下水を汲み上げ、トレーラーによって運搬されるため、ローカルコミュニティの水不足や大気汚染、道路状況の悪化、交通事故の増加にも繋がっています。
2. 砂とプロパント原材料の掘削
フラッキングで頁岩層に作った割れ目が塞がるのを防ぐために使用されるプロパントと呼ばれる支持材の原料となる砂等の掘削による環境への影響が懸念されています。
3. 有毒化学薬品の使用と情報公開義務の欠如
フラッキングに使用される約600種類にものぼる化学薬品には毒性のあるものが含まれており、人間や生物に悪影響を与えることで知られています。また、ほとんどの州で、企業はそれらの化学薬品の情報を公開する義務を負っておらず、州によってはフラッキングを行うことを周辺住民に知らせる義務すらありません。
4. オイル漏洩による地表水と土壌の汚染
他のオイル掘削と同じく、フラッキングによるシェールガス/オイルの掘削にも漏洩事故は付きものです。ピットと呼ばれる採取した混合液を一時的に貯留しておく人工池からの流出や、パイプラインからの漏洩事故による川や土壌の汚染が後を絶ちません。
5. 地下水汚染
Credit: Franke James
フラッキングの油井は地下水脈よりも深い場所まで掘削してコンクリートで固め、そこに管を通してシェール層に作った割れ目に化学薬品と水の混合液を注入するのですが、そのいずれかの過程で地下水脈に化学薬品が混入していることが疑われるケースが見受けられます。
6. 大気汚染
フラッキングに使用されるベンジンなどの揮発性の高い化学薬品や、フラッキングによって発生するメタンなどによる大気汚染が、周辺住民の健康問題に発展しています。また、油井掘削時に発生する細かい砂の粒子による大気汚染とそれを吸入した周辺住民の健康問題も起こっています。
7. 騒音・振動による被害
油井掘削時の騒音と振動で日常生活を送ることができず、それが原因で病気になったり引っ越しを余儀なくされるケースが報告されています。
8. 廃液処理
ガスやオイルを抽出後、フラッキングに使用した大量の水と化学薬品の廃液の25%から100%は、そのまま油井に戻され放置されています。
9. 地震
近年、フラッキングを行った後の油井近辺で多数の地震が発生して問題となっています。今のところはまだ大きな地震には繋がっていませんが(最大でマグニチュード4.6)、このままこの問題を放置すると最大でマグニチュード7クラスの地震に繋がる可能性があるとも言われています。
フラッキング問題の表面だけを流しましたが、最大の問題は連邦政府も州政府もエネルギー国家安全保障と企業の利益を優先させているため、これらの問題への対応が鈍く、一般市民の声が政策に反映されていないことでしょう。企業と多くの州政府はこれらの問題の多くとフラッキングとの関連性を否定しています。
典型的な環境正義問題として、今後さらに市民や非営利団体、地方都市が州政府や連邦政府と対立を深めていくことが予想されます。
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