気候変動対策に反対する人たちが答えるべき倫理/公正に関する問い: 経済コスト編

  気候変動が科学や政治、経済だけではなく、倫理や公正の問題として捉えられなければならないということは、これまでに触れたことがありますが、気候変動対策が失業率の上昇や経済の衰退に繋がるという主張や、気候変動の科学的な不確実性を根拠に気候変動対策に反対したり(不確実性を通り越してそもそも温暖化していないという意味不明な主張もありますが)、政治的な思惑を絡めて懐疑論を展開する個人や企業・団体が後を絶ちません。また、中国やインドなどの二酸化炭素排出量が多い途上国が本格的な気候変動対策を取らない限り、自国は対策を講じる必要がないという主張もよく見聞きします。

  果たして、これらの主張は気候倫理/公正に照らして正当な主張であると言えるのでしょうか?気候変動の存在や気候変動対策の必要性を様々な理由で否定する人たちは、以下に挙げる質問に科学的事実や倫理的/公正的な正しさの根拠を基に答えなければなりません。

  すべての主張に対する質問を挙げると長くなるので、3回に分けて書くこととし、この記事では「経済的損失や特定産業の損失、失業者の増加などの経済への影響を理由に、政府による気候変動対策に反対する人や団体」が答えるべき倫理/公正に基づく質問を挙げます。

  まず、気候変動が世界的規模でどのような問題であるのかを、倫理/公正の視点から見ていきたいと思います。

・気候変動問題は、特定の国(アメリカや日本などの先進諸国)とそこに住む人たちが大量の温室効果ガスを排出してきたことに起因します。そして、これらの国々や人々が温室効果ガスの排出によって利益を享受する一方で、温室効果ガス排出量が少ない途上国(特に貧しい後発開発途上国)とそこに暮らす人々(特に貧困層)が気候変動による深刻な負の影響を受けています。また、未来の世代は何もしていないにもかかわらず、生まれた瞬間から我々が排出してきた温室効果ガスによる温暖化の影響を受けることになります。

・先進諸国と異なり、環境の変化に適応するリソースを十分に持っていないために被害を受ける環境弱者にとっては、気候変動による小さな環境の変化が壊滅的なものになる可能性があります。

・気候変動の影響を受けやすい人たちの多くは、自国の政府に要望することで被害から身を守ることができません。彼らには、気候変動の原因を作っている国々が公正に基づいて温室効果ガス排出量を著しく減少してくれることを望むことしかできません。

・気候変動の影響を最も受けやすい環境弱者を守るためには、温室効果ガスを大量に排出している国々と、排出量が少ないにもかかわらず被害を受けている途上国が気候変動によって受ける正と負の影響を公平に保たなければなりません。

・気候変動は、多くの人々から生存権や安全保障などの基本的人権を奪います。気候変動は、倫理やモラル、公正の深刻な問題であるため、この問題を解決するためには、原因を作り出している国々は利己主義に基づく気候変動対策を講じてはならず、原因を作っている当事者として、被害者への責任と義務を果たすための対策を施さなければなりません。

  これらの気候変動問題の倫理/公正からの視点を踏まえると、以下のような問いかけに答える必要があります。

A. 経済的損失や特定産業の損失、失業者の増加などの経済への影響を理由に、政府による気候変動対策に反対する人/団体が答えるべき倫理/公正に基づく問い

1. 温室効果ガスを大量に排出している国には経済的利益を得るだけでなく、気候変動の深刻な影響を受ける国々や人々と、利益と損失が公平になるように温室効果ガスの排出量を抑える責任と義務があることを否定しますか?

2.  経済的損失を避けるためなら、他国の人の命を奪ったり危険にさらす権利や、彼らが生存するために依存している環境システムを破壊する権利を持っていると思いますか?

3. 国連気候変動枠組み条約に参加している、温室効果ガスを大量排出している先進諸国が、他国の人々の健康被害や環境破壊を防ぐために、気候変動対策を採択する義務を負うことを否定しますか?

4. 国際基準として確立している「汚染者支払原則」の妥当性を否定しますか?

5. これまで20年以上気候変動対策の実施を遅らせてきた先進諸国が、経済的損失に繋がるからという理由で気候変動対策の実施を遅延・拒絶することは、倫理/公正に反する行為ではないと思いますか?

6. 気候変動による被害を受ける人々や、破壊される環境システムがあることを知りながら、なお気候変動対策を遅延させる国々は、被害を受けている国々や人々の主張を受け入れる責任と義務があることに同意しますか?



  経済的コストを理由に気候変動対策に反対する人たちは、これらの問いかけに理性的かつ論理的な答えを用意して、自らの選択の妥当性を主張する必要があります。

  次回の記事では、気候変動の科学的な不確実性を根拠に気候変動対策に反対する人や団体が答えるべき質問を挙げていきます。


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