気候変動による温暖化が進み、2年連続で地球の平均気温が観測史上最高記録を更新しても、冬に寒波に襲われて大雪が降ると、「地球温暖化は嘘」「地球は寒冷化している」と言い始める人が後を絶ちません。
では、この「ジョナス」のような冬の嵐の原因は気候変動にあるのでしょうか?答えは「いいえ」です。これまでに何度も述べてきたように、特定の極端な気象現象の原因を気候変動による温暖化であると断定することは不可能です。でも、だからといって冬の嵐が温暖化していない証拠なのか?というと、答えはもちろん「いいえ」です。今は冬です。温暖化が進めば気温の低い日は減少する傾向にありますが、それでも冬になれば雪を降らせる程度に寒い日はやってきます。
それでは、気候変動が「ジョナス」に影響を与えているのでしょうか?答えは「(高い確率で)はい」です。しかも、温暖化が進むほど暴風雪のような気象現象は起こりやすく、そして勢力が大きくなりやすいのです。
まず、気温が上昇することによって、大気がより多くの水蒸気を含むようになります。気温が1℃上昇すると、大気に含まれる水蒸気の量は7%増加します(Trenberth 2011)。大気がより多くの水蒸気を含むと、その水蒸気はどこかに雨や雪として降ります。
アメリカ大気研究センターの気候科学者であるケビン・トレンバース氏は、米東海岸の大西洋沖の海面温度が平年よりも1.7℃以上高いために大気中の水蒸気が10%から15%多くなっていると見られ、このうちの約半分は人為的気候変動の影響によるものと指摘しています。
全米各地域における、1958年から2012年にかけての極端な降雨現象(最も極端な上位1%の降雨現象)による降水量が変化した割合
Credit: 米国気候変動研究プログラム
また、米国気候変動研究プログラムによる2014年版全米気候評価報告書によると(上図参照)、米東海岸、特に北東部における、温暖化が顕著になってきた1958年以降の極端な降雨現象によって降水量が大幅に増加しており、その影響で冬には暴風雪のような気象現象で降雪量が多くなっているとみられます。
通常よりも大きく蛇行したジェット気流
Credit: NASA
さらに、北極圏の温暖化が他の中緯度地域と比較して2倍の速さで進み、極地域と中緯度地域の気温差が小さくなっていることが原因で、本来は北極の寒気団を極地域に閉じ込める役割を果たしているジェット気流のスピードが落ち(気温差を坂だと想像してみて下さい。坂の角度が大きければ大きいほど速度が増し、坂の角度が小さくなれば速度は落ちます)、南北に伸びて大きく蛇行し、その谷に低気圧が、尾根に高気圧が位置する傾向が見られます(Francis & Vavrus 2015)。そして、ジェット気流の速度が遅いために、高気圧も低気圧も長い時間をかけて進むため、ある地域に長時間停滞することになります。
今回の「ジョナス」のようなストームは、通常よりも温度が高くなっている海水からより多くの水蒸気を以前よりも長い時間をかけて蓄えた大気が、ある場所に以前よりも長い時間をかけて大量の雪を降らせることになるのです。
もう少し気温が高ければ雨になり、もっと気温が低くなれば空気が乾燥するために大雪が降ることはないのですが、温暖化によって大気がちょうど雪を降らせやすい状態になっていることも原因のひとつです。温暖化が進むことで平年よりも暖かい冬が多くなるのですが、それがより冬の嵐による暴風雪を起こしやすくさせているという研究結果があります(Changnon et al. 2006)。この研究によると、1901年から2000年までのデータを調べたところ、その間の1月から2月にかけてアメリカで起こった吹雪のうち、71%から80%が平年よりも暖かい冬だった年に起こっており、将来的にはさらに暴風雪が増えると指摘しています。
つまり、暴風雪をもたらす冬の嵐が起こるのは、温暖化していないからではなく、地球温暖化によってより暴風雪のような気象現象が起こりやすくなっているのです。
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【参照】
Changnon, S. A., Changnon D., and Karl T. R. (2006). Temporal and Spatial Characteristics of Snowstorms in the Contiguous United States. J. Appl. Meteor. Climatol., 45, 1141–1155. doi: http://dx.doi.org/10.1175/JAM2395.1
Francis, J., & Vavrus, S. (2015). Evidence for a wavier jet stream in response to rapid Arctic warming. Environ. Res. Lett., 10(1), 014005. doi:10.1088/1748-9326/10/1/014005
Karl, T. R., J. T. Melillo, and T. C. Peterson, Eds., (2009). Global Climate Change Impacts in the United States. Cambridge University Press, 189 pp. [Available online at http://downloads.globalchange.gov/usimpacts/pdfs/climate-impacts-report.pdf]
Trenberth K (2011). Changes in precipitation with climate change. Climate Res 47:123–138. doi: 10.3354/cr00953
Climate Change Impacts in the United States|U.S. National Climate Assessment U.S. Global Change Research Program http://nca2014.globalchange.gov/
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