Credit: waterdotorg
環境問題による悪影響は、すべての人に対して公平に降りかかることはありません。環境破壊が自然現象によって引き起こされたものでも、その最も深刻な影響を受けるのは社会的弱者であり、その弱者は所属する社会によって構造的に作り出された人たちです。また、人為的な環境破壊に至っては、政治的意思によって弱者が多い地域を対象に行われたり(企業が利益を得るための経済活動による大気汚染や水質汚染、資源開発による自然環境の破壊)、環境破壊の責任がない(極端に小さい)にもかかわらず、適応する術を持たないために社会的弱者が最も深刻な影響を受けるケース(気候変動)がほとんどです。
前者については、以前に『パーム油の環境正義問題』で述べました。後者については、これまでに『気候変動の倫理/公正的観点』や『【COP21】ロス&ダメージ(損失と被害)で隔たる先進国と途上国 』などで触れてきました。
これらの記事で述べたように、気候変動の深刻な影響は、社会的構造によって不公平に分配されています。その中で最も被害を受けているのは、女性であると言われています。気候変動によって受ける影響は、性によってその深刻さが異なるのです。
特に後発開発途上国においてこの傾向は顕著です。社会的構造の中で性別間の人権が平等ではなく、女性が弱い立場にあり、自然災害や気候変動による被害を受けやすい状態に置かれています。自然由来にしても人為的なものにしても、災害が発生した際に女性には子どもや老人の面倒を見ることが義務づけられており、また、家長(男性)の指示に従う義務があるため、女性は最後まで家を離れることができずに逃げ遅れ、最悪の場合は死に繋がることになります。ロンドン大学経済・政治学部が行った2007年の研究によると、自然災害による死者は男性よりも女性の方が多く、特に女性の社会経済的地位が低い国や地域でその差が大きいそうです。例えば、2004年に起こったスマトラ沖地震による津波で亡くなった人の70%は女性でした。
今後、気候変動による気温上昇に伴い、途上国の女性のリスクはさらに増すことになります。例えば、アフリカのサハラ砂漠以南の田園地域では、63%の女性が家庭で利用する水を集めてくる義務を背負わされています。同じ作業の義務を負っている男性はわずか11%です。世界中の女性が水を集めるために費やしている時間は、合計で1日あたり1億4千万時間にも及ぶそうです。1日あたりの数字です。1年でも1ヶ月でもありません。
温暖化による干ばつや森林開発による砂漠化などで、これまでよりもさらに遠くまで水を汲みに行かなければならず、女性の不当な負担は益々増えるものと思われます。また、水を集めに行く途中で性的被害を受ける女性が後を絶たず、水集めに費やす時間の増加に伴い、女性の被害が増えることも懸念されています。
さらに、この中には水汲みに多くの時間を費やすために、男性と平等に教育を受けることができないたくさんの子どもたちが含まれています。成人女性の中にも、子どもの頃から教育を受けることができなかっために、男性と同じように都市部で仕事を探すことすらできない人が大勢います。
また、多くの途上国では、女性が農業に従事する割合が高いにもかかわらず、土地を所有する権利を認めておらず、負担の大きさに収入や利益が伴わない状況になっています。
このように、女性が社会の中で自立して生きていくための人権が平等に与えられていないため、気候変動による深刻な影響も女性に偏る結果になっているのです。
このような状態を変えるためには、女性が様々な問題を決定する過程に参加することが重要なのですが、現時点では途上国のみならず、国際的組織においても重要な取り決めを採択するまでの過程に参加している女性はわずかしかいません。国連加盟国のうち、環境部門トップの役職に就いている女性はわずか12%に過ぎません。気候変動枠組条約締約国会議の機関や委員会に所属している女性の割合は36%から41%、各国の代表として派遣されている人のうち、女性は26%から33%、IPCC第5次報告書で女性の筆者が占める割合は約20%、34あるIPCCの議長や共同議長、副議長のポジションのうち、女性はわずか8人、気候変動問題に関するインタビューを受ける女性の割合は15%と、男性と比較すると重要事項の決定過程への参加が極端に少ないのが現状です。
それに呼応するように、2015年にパリで開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)」において採択された「パリ協定」には、女性の人権問題と気候正義問題に関し「男女平等と女性の社会的地位の向上を考慮する義務があることを認識する」という、詳細や具体性、実現するための義務や罰則を伴わない記述に留まっており、問題の深刻さを反映した内容にはなっていません。
気候変動による影響が女性に不公平に偏っている現状を変えるには、その根本的原因となっている社会的構造を変えるしかなく、その第一歩は女性が男性と平等に決定過程に参加することです。女性の人権問題について男性が大半を占める状況で決定している間は、男女間の不平等、不公平、不公正がなくなることはありません。
【参照】
Why Climate Change Is A Women’s Rights Issue|Climate Progress
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