メリーランド大学の共同研究チームが、アメリカで有毒な汚染物質を排出している汚染企業のうち、特に大量に排出しているのは10%以下であり、それらの企業が全体の90%以上の汚染物質を排出しているという研究結果を発表しました。また、研究チームによると、それらの施設の多くはアフリカ系やヒスパニック系らの有色人種や、低所得者層が多数を占める地域に建設されているとのことです。
環境社会学と計算科学の専門家からなる研究チームは、米環境保護庁(EPA)が公開している2007年の約16,000に及ぶ汚染物質を排出している施設を対象としたデータと、2000年の米国勢調査のデータを基に調べたところ、「Super polluters」という、最悪の中でもさらに最悪な10%未満の汚染企業が約90%の汚染物質を排出しており、しかもそれらの施設を他の汚染物質の排出量が少ない施設と比較すると、有色人種や低所得者の多い地域に集中していることが判明しました。
言い換えると、有色人種や低所得者が多く住む地域に建設されている施設からは、他の地域の施設よりも極端に多い汚染物質が排出されているということです。研究チームはその理由として、経済的に豊かな白人が多い地域と比較すると、有色人種や低所得者層が多い地域では政治・経済的な力が乏しいため、大量の公害物質を排出する施設の建設が計画段階で注目を集めることもなく、すんなりと進んでしまうのではないかと指摘しています。
石油精製施設や化学薬品製造工場、ゴミ廃棄場などの公害物質を排出する施設が、マイノリティや低所得者層の多い地域を狙って建設されていることはこれまでにも指摘されてきましたが、研究チームはここまで偏った状況になっていることに驚きを隠せないようです。
このような研究結果はとても重要で、環境汚染によって利益を得る企業の経済活動の特徴を把握することによって、特定の層の居住地域を狙った公害施設の建設や誘致、行政の無責任な決定プロセスを明らかにし、プロセスの透明化、責任の所在の明確化、説明責任の徹底などを訴えることができるようになります。
今回の研究結果でハッキリとわかるような、企業が明確な意思を持ってマイノリティや低所得者層をターゲットにして汚染物質を排出するという典型的な環境正義問題を見過ごしてはいけないのです。
P.S. アメリカでは、公害問題の被害を受けやすいのはマイノリティや低所得者層ですが、日本の場合だとそれを「過疎化が進む高齢者の多い地域」「地方の経済力に乏しい小さな自治体」と置き換えれば、決して遠い国で起こっている問題と他人事のように捉えることはできないと思います。
【参照】
Collins, M., Munoz, I., & JaJa, J. (2016). Linking ‘toxic outliers’ to environmental justice communities. Environ. Res. Lett., 11(1), 015004. doi:10.1088/1748-9326/11/1/015004
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