アメリカで汚染物質を最も大量に排出している施設が、有色人種と低所得層の多く住む地域に集中しているという記事を書きましたが、今回は具体的に気候変動による地球温暖化と環境汚染、そして健康被害の原因となっている石炭火力発電所がアメリカのどのような地域に建設されているのかについて書いてみます。
2011年に全米黒人地位向上協会(NAACP)、先住民環境ネットワーク、Little Village Environmental Justice Organizationが共同で発表した調査レポート「Coal Blooded: Putting Profits Before People」によると、アメリカの石炭火力発電所は、有色人種や低所得者層の多い地域に集中しているそうです。
レポートは、全米378の石炭火力発電所から排出される二酸化硫黄(SO2)と窒素酸化物(NOx)が周辺住民(半径約4.8km)に与える影響を調査し、環境正義の観点からランク付けを行いました。
レポートによると、これら378の石炭火力発電所から半径3マイル(約4.8km)以内に約600万人が住んでおり、それらの人々の平均収入(当時)は18,400ドル(約216万円)と、全米平均の21,587ドル(約254万円)よりも約17%低くなっています。また、人種構成を見ると、石炭火力発電所の半径約4.8km以内に住んでいる有色人種の割合は約39%で、当時のアメリカの平均である約36%を3%上回り、発電所の建設場所が低所得者層及び有色人種の多い場所に偏っていることがわかります。
有色人種と低所得者層に与えている悪影響を基準に点数をつけランク付けをしたところ、378の発電所のうち、75の発電所が環境正義の合格水準を下回り、不公平に影響を与えていることが判明しました。それら75の発電所の周辺(半径約4.8km以内)には約400万人が住んでおり、平均収入は17,500ドル(約206万円)とアメリカの平均よりも約25%低く、約400万人のうち、半数を超える53%が有色人種という結果が出ています。つまり、質の悪い石炭火力発電所ほど、有色人種と低所得者が多い地域に建設されていることがわかります。
また、アメリカで排出される二酸化硫黄の約74%、窒素化合物の約18%、PM2.5(微小粒子状物質 )の約85%を石炭火力発電所が占めているのですが、その影響によってぜんそくで入院する黒人は白人の約1.7倍にのぼり、ここでも石炭火力発電の影響が不公平に偏っていることがわかります。
全米黒人地位向上協会で環境正義/気候正義プログラムのディレクターを務めるジャクリーン・パターソン氏によると、黒人の子どもは白人の子どもよりもぜんそく発作で緊急治療室に運ばれる割合が3倍も高く、ぜんそく発作で亡くなる黒人の子どもは白人の子どもの2倍にのぼるそうです。
今回は、石炭火力発電所「だけ」の環境正義問題について触れましたが、「石炭」による環境正義問題は発電所だけにとどまりません。採掘の段階においても、環境汚染と健康被害、労働者に対する人権問題が存在します。また、燃焼後に残る石炭灰を自然環境に廃棄することによる環境汚染(河川の水質汚染など)とそれが原因で引き起こされる健康被害の問題もあります。
石炭産業や石炭火力発電所を持つ企業は、従来の技術よりも公害物質の排出量が減少していることや、他国や他社と比較して汚染物質排出量が少ないことを取り上げ、「クリーンコール(キレイな石炭)」をアピールしますが、どんなに減ったところで環境を汚染し、健康を害する公害物質の排出がゼロになるわけではありません。「クリーンなコール」などこの世の中には存在しないのです。「以前よりは汚くなくなった」「他国や他社よりも汚くない」だけで、環境汚染と健康被害がゼロになったわけではありませんし、他のエネルギーと比較するとクリーンではありません。
今回取り上げたような調査結果は、環境正義問題への関心が高いアメリカでもそれほど多く発表されているわけではありません。日本について簡単に調べてみたところ、石炭火力発電所と周辺住民の人口構成や収入、健康被害などに関する調査結果は見当たりませんでした。
日本は東京電力福島第一原発事故以来、石炭火力をはじめとする化石燃料による火力発電に大きく依存しており(2013年度の内訳では石炭の割合が約30%。上図参照)、日本の高い技術力を用いても排出される公害物質がゼロになるわけではないので、どこでどれくらいの量の汚染物質が大気中に排出されているのかは明らかにされるべきだと思います。
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【参照】
Coal Pollution and the Fight For Environmental Justice|Yale Environment 360
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