今後数十年の気候変動対策次第では、最悪の場合、1万年後の世界は現在よりも気温が7℃高くなり、それに伴い海面が52メートル上昇するという研究結果が、ネイチャー・クライメートチェンジ誌に掲載されました。
これまでに発表された気候変動関連の研究は、2100年の気温や海面、降水量などについてのものが多く、もっと長期に及ぶシミュレーションがなされていなかったため(研究者によると、それはコンピュータの処理能力の問題だったそうです)、今回の1万年後を予測する研究結果は意味のあるものだと思います。
22名からなる研究チームは、気候モデルを使い、炭素の総排出量のシナリオごとに1万年後の気温と海面の変化をシミュレーションしました。
産業革命からこれまでの炭素の総排出量は約580GtC、近年の炭素排出量は1年あたり約10ギガトン(以下GtC。二酸化炭素排出量で約36.6GtCO2に相当: 数値の違いは、炭素と酸素原子の重さの違いによる。C = 12.01グラム、O = 16グラム、CO2 = 44.01グラム。CO2 ÷ C=44.01 ÷ 12.01 = 3.664)とされています。研究チームは、2100年までの炭素の総排出量を1,280GtC、2,560GtC、3,840GtC、そして5,120GtCの4つのシナリオに分け、それぞれの気温と海面の上昇について調べました。
最も炭素排出量が少ないシナリオの場合、2100年までの総排出量が1,280GtCなので、今後2100年までの85年間の排出量を700GtCに抑える必要があり、そうなると排出できる炭素の量は年平均約8.2GtCです。排出量が最も多いシナリオでは、2100年までの1年あたりの排出量を約53.4GtCに抑えればいいことになります。先述のように、現在の排出量は年間約10GtCなので、今後の気候変動対策とテクノロジーの進歩次第では、最も少ないシナリオも不可能ではありませんが、今のところは現実的ではないと思われます。
それぞれの排出量をシミュレーションしたところ、最も排出量の多いシナリオ(累積の炭素排出量が5,120GtC)では、1万年後の気温は現在より約7℃高く、海面は約52メートル上昇するという結果が出ました。このケースでは、グリーンランドの氷床はすべてとけ、南極の氷床の融解による海面上昇は45メートルに及ぶとされています。また、最も排出量が少ないシナリオでも、現在よりも気温が2℃、海面が25メートル上昇するという結果になっています。
つまり、今後の二酸化炭素排出量次第で、1万年後の人たちは今よりも2℃から7℃暑く、25メートルから45メートル上昇した海に囲まれた世界で生きることになります。言い換えれば、今後どれだけ排出量を削減する努力をしても、大気中の二酸化炭素を取り出してどこか漏出しない場所に閉じ込める技術を早急に発明しない限り、気温が2℃高く、海抜は25メートル高い世界が保証されてしまうことになります。
以前にも違う水位のものを掲載した記事http://climatechange.seesaa.net/article/429274459.htmlを書きましたが、今回の研究結果に近い数値(20メートルと50メートル)の海面上昇が起こった場合に、東京と大阪がどうなるかを載せておきます。どれだけの人に影響を与えることになるのか、想像できるのではないでしょうか。
東京(25メートル上昇)
東京(50メートル上昇)
大阪(25メートル上昇)
大阪(50メートル上昇)
2015年12月に国際社会が採択した「パリ協定」には、各国が努力目標を設定し、経過を報告する義務はあっても、達成できない場合の罰則はありません。そして、現在の各国の努力目標では、2100年までの気温上昇を2℃未満に抑えるには不十分と言われています。
今後数年から数十年の気候変動対策が、次の世紀だけではなく、1万年先や数万年先の、私たちの子孫が生きる世界を決定することになります。
気候変動の科学には、小さいながらもまだ不確かな点が多く、今回の研究通りの未来が訪れるのかどうかはわかりませんが、今から数百年後、数千年後、数万年後の世代に、「気温と海面が上昇した(している)のは、温暖化の原因がわかっていながら、それでも欲を満たすために石炭や石油、ガスを使い続けた20世紀と21世紀を生きた世代のせいだ。」と言われるのは間違いないでしょう。
私たちにできるのは、未来の世代に少しでも生きやすい世界を残すことだけです。そのために最大限の努力をする責任と義務が私たちにはあるのです。
【参照】
Clark, P. et al. Consequences of twenty-first-century policy for multi-millennial climate and sea-level change. Nat Clim Change (2016). doi:10.1038/nclimate2923
この記事へのコメント