2002年から2014年の間に、海洋からより多くの水分が蒸発して陸地へ循環し、土壌や湖、地下水脈などに蓄えられたことによって海面上昇の速度を緩和していたという研究結果を、米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所とカリフォルニア大学アーバイン校の共同チームがサイエンス誌に発表しました。
IPCC報告書の海面上昇に関するセクションやこれまでの研究では、海面上昇は陸地の氷床と氷河の融解によるものと、海洋の温暖化による熱膨張のみでシミュレーションが行われてきましたが、海洋から蒸発した水分が雨や雪となって陸地へ運ばれ、それがまた海へ運ばれる水循環が海面を上昇を速めているのか、緩和させているのかを知るのは技術的に難しく、不確かでした。
2002年から2014年までの世界における貯水状況の傾向。赤は水の減少を表し、青は水の増加を表す。
Credit: Reager et al. 2016
今回の研究では、重力から陸地の水分を計測する衛星(GRACE)を利用して、土壌や湖、帯水層(地下水脈)が一時的に蓄えている水分を調べた結果、2002年から2014年の間に、陸地は3.2兆トン多くの水分を蓄えました。これは、1年あたり約0.71ミリメートルの海面上昇に相当し、その速度を約20%遅くさせたと指摘しています。
研究の主執筆者であるリード氏は、「これまで人間活動による大量の地下水の汲み上げと消費が、海から陸への水の移動よりも多くの水を海へ運んでいると推測してきましたが、少なくとも2002年から2014年の一時的な期間においては、地下水の汲み上げで失った量を超える水を、地球規模の水循環の変化によって陸がスポンジのように吸収していたことまでは知りませんでした。」と述べています。
共同執筆者のファミグリエッティ氏は、今回の研究が地球規模の水収支をより正確なものにするきっかけになるとし、気候による水循環の変化を把握するためにも重要であると指摘しています。また、同氏は「湿潤な地域がより湿潤になり、乾燥していた場所がより乾燥している。」とも述べています。上の地図を見ると、2011年から数年間深刻な干ばつに見舞われた米テキサス州や、現在も歴史的な干ばつが続いているカリフォルニア州は大量の水を失っています。日本も、本州は失っている水の方が多いようです。
この研究結果は、地球全体ではより多くの水が海から陸地へ雨や雪として運ばれていることを表していますが、陸地の水分がモデルによるシミュレーションではなく、実際に観測されたのは今回の研究が初めてであり、さらに期間も短いため、研究を行った科学者たちは今回の結果が自然変動による一時的なものなのか、気候変動の影響を受けた長期的な傾向なのかはわからないとしています。
衛星による陸地の水分観測は歴史が浅く、不確かな点も少なからず存在しますが、気候変動による地球規模の水循環の変化と陸地の水収支を把握するために、大変重要な研究結果であると言えます。
【参照】
Reager et al. A decade of sea level rise slowed by climate-driven hydrology. Science 351, 699–703 (2016).
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