米ルイジアナ州のメキシコ湾に浮かぶ小さな島の先住民が、海面上昇による浸食が原因で島に住み続けることが困難になり、内陸部に住民全員で移住することが決まりました。彼らは、米本土で初の「気候難民」になります。
Credit: Stacy Kranitz
ルイジアナ州のニューオーリンズから約130km離れたメキシコ湾の湿地帯にある「Isle de Jean Charles」と呼ばれる島で暮らす先住民族「Biloxi-Chitimacha-Choctaw」は、欧米人との接触による病気の蔓延や迫害を避けるために170年前から島に定住し、漁を中心とした生活を営んできました。
しかし、気候変動による海面上昇と、石油・ガス会社による島周辺の油井・ガス田の掘削、それに伴うパイプラインの建設によって、島をハリケーンやストーム、高潮から島を守ってきた湿地帯が乱開発されたために侵食が進み、1955年以降に島の98%を失い、島と本土を結ぶ片側1車線の道路は、ハリケーンやストームなどで高潮に見舞われると海に飲み込まれるようになりました。
彼らは、民族が離散して途絶えてしまうのを避けるために、連邦政府に民族全員が内陸部に移住できるように支援を求めてきましたが、米住宅・都市開発省から約100億円の資金を勝ち取ったルイジアナ州政府より約54億円の援助を受けて、島に残っているすべての住民とすでに島を離れた人たちが、移住した場所で新たな歴史を作り始める予定です。
しかし、彼らから島と民族の文化を奪う大きな原因を作った石油・ガス会社からの補償は1セントもありません。
彼らは、移住後も引き続き島の資産の所有権を持ち続けることになっていますが、彼らの文化や先祖の眠る墓は、沈みゆく島に残されることになります。
米海洋大気局によると、現在の海面上昇のペースが続くと、50年後までに島はメキシコ湾に沈むそうです。
「気候難民」という言葉を聞くと、インド洋のモルディブや、ツバルやキリバス、マーシャル諸島など南太平洋の島しょ国を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、海面上昇による海岸の浸食で移住を余儀なくされるアラスカの先住民のように、アメリカのような先進国内でも先住民や有色人種、低所得層にとって、気候難民問題はこれからより身近になっていくでしょう。
想像してみてください。先祖代々受け継いできた土地を、自分たちが作り出していない原因によって追われることを。
その土地が数十年後には海に沈んでしまい、自分たちの文化が消えてなくなってしまうことを。
そして、自分たちにそれを止めるためにできることが何ひとつないことを。
【参照】
Isle de Jean Charles Band ofBiloxi-Chitimacha Indians become the first official Climate Refugees|Daily Kos
‘Vanishing Island’|New York Times
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