海面上昇が過去2800年で最速のペースで進んでおり、20世紀の海面上昇の半分以上が人為的地球温暖化によるものであった確率が95%以上という研究結果が、米科学誌「米国科学アカデミー紀要」に発表されました。また、同研究は2100年までに最大で131センチメートル海面が上昇する可能性があると指摘しています。
研究チームは、世界24ヶ所の珊瑚礁や湿地帯、フィヨルドなどから、過去3000年にわたる海水位の変化を示すプロキシデータを分析して再構築したところ、20世紀の海面上昇のペースは、その前の27世紀(2700年)と比較して2倍から3倍の速度で進んだことがわかりました。
世界の海面水位の変化(単位: センチメートル)。黒の実線は平均。暗いグレーの部分は67%の確率区間。薄いグレーは95%の確率区間。グラフ枠外の赤い実線は、共同執筆者のひとりであるRahmstorf氏が衛星のデータを基に付け足したもの。
Credit: Real Climate
上のグラフは、過去2500年間の海水位の変化を表したもので、研究論文のグラフに執筆者のひとりが2000年以降の海面上昇を赤線で付け加えています。1900年から2000年の間に約14センチメートル海面が上昇しましたが、研究結果では、もしも世界の平均気温が産業革命以前(500年から1800年までの世界平均気温)から上昇していなければ、海面の水位は3センチメートルの減少から7センチメートルの上昇の範囲だったとし、地球温暖化の影響で海面上昇のペースが2倍以上になったと指摘しています。
この、長期間大きな変化がないまま推移した後、20世紀に入ってから急上昇するグラフを見て、20世紀末に発表されて話題になったあるグラフを思い浮かべる人もいるのではないでしょうか。
1000年から1999年までの北半球の平均気温の偏差(単位は℃)。青線はプロキシデータから再構築された気温。赤は観測データ。破線は1000年から1850年までのトレンドライン。
Credit: IPCC (元はMann et al. 1999)
これは、IPCC報告書にも掲載された、マイケル・マン氏が気候変動否定派に叩かれて有名になってしまった「ホッケースティック」と呼ばれている、1000年から1999年までの気温の変化を表したグラフです。気温上昇に伴って熱膨張して海面が上昇するため、気温と海面には密接な関係があることが知られていますが、今回の研究はそれを裏付ける形となり、このふたつのグラフがその特徴をよく表していると思います。
1世紀以降の海面水位の変化。単位はインチ。
Credit: Climate Central
このグラフは、研究論文のデータを元にClimate Centralが世紀ごとの海面水位の変化を表したものです。人為的気候変動による気温上昇が始まる前はむしろ減少傾向にあった水位が、20世紀に急激に上昇している様子がよくわかります。
1900年から2000年までの海面上昇のペースが年平均1.4ミリメートルだったのに対し、現在は海面が年間3.4ミリメートルのペースで上昇しており、21世紀に入ってからさらに加速していることになります。
また、研究では2100年までの海面上昇についてもIPCCのシナリオ別に予測しています。二酸化炭素の排出量が最も少ないシナリオでは、2100年までの海面上昇が38センチメートル(24~61センチメートル)、最も排出量が多いシナリオだと76センチメートル(52~131センチメートル)海面が上昇すると予測しています。
ただし、今回の研究における21世紀の海面上昇の予測は過去のデータも含めて行われており、海面上昇の原因のほとんどが「海洋の温暖化による熱膨張」と「陸地の氷河の融解」であるため、今後、21世紀後半の海面上昇の予測をより正確に行うためには、グリーンランドや南極の氷床の融解や、氷棚の崩壊などの要素に注目することが重要だと執筆者は指摘しています。
何よりも、最悪のシナリオを避けるために、世界各国が温室効果ガス排出量の削減策を実行することが急務です。
【参照】
R.E. Kopp, A.C. Kemp, K. Bittermann, B.P. Horton, J.P. Donnelly, W.R. Gehrels, C.C. Hay, J.X. Mitrovica, E.D. Morrow, and S. Rahmstorf, "Temperature-driven global sea-level variability in the Common Era", Proceedings of the National Academy of Sciences, pp. 201517056, 2016. http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1517056113
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