気候変動を信じるかどうかを決めるのは科学的事実などではなく、「政治的な立ち位置」という研究結果

  56ヶ国にまたがる25の世論調査と171に及ぶ学術研究のメタ分析をしたところ、気候変動を信じるかどうかを決定する最も大きな要素は、科学的根拠などの事実ではなく、所属(支持)政党や世界観、価値観であるという研究結果がネイチャー・クライメートチェンジに掲載されました。

  研究によると、今回のメタ分析で大きな発見がふたつあったとしています。ひとつは、年齢や性別、収入、主観的知識、教育レベル、極端な気象現象などの個人的な経験よりも、個人が元々持っている価値観やイデオロギー、世界観や政治的志向の方が気候変動を信じるかどうかを決める大きな要素であること、そしてもうひとつは、気候変動を信じているからといって、それが気候変動対策に必要な行動に繋がるとは限らないということです。

  研究では、200近い世論調査と学術研究から「年齢・性別・収入・人種・教育レベル・支持政党・政治的イデオロギー」の人口統計学的変数、「客観的知識・主観的知識・科学への信頼・新生態学的パラダイム・科学的合意の認識・極端な気象現象の経験・ローカル地域の気象現象の変化・個人的な文化的価値観」などの先行変数、「環境配慮行動(個人的・社会的)・政策支持・経済よりも環境を優先する行動」などの結果変数の合計27の要素を集計、分析しました。

  執筆者のひとりは、今回の分析によって、「温暖化を信じない人は教育レベルが低い高年齢の白人」という、これまで信じられてきたステレオタイプ的な要素は気候変動を信じるかどうかと関連性はあるものの、個人の持つイデオロギーや政治的志向、世界観の方がより大きな決定要素となっていると指摘しています。そして、その中でも、個人の政治的価値観やイデオロギーよりも、その個人が所属・支持する政党によって気候変動を信じるかどうかが決まる傾向が強いそうです。

  例えば、保守的な価値観を持つ人が米共和党を支持している場合、支持政党を持たない保守的な人よりも気候変動に懐疑的であったり否定的であったりする傾向が強くなるということになります。また、全体的な傾向として、米民主党支持者は気候変動の科学を信じる割合が高く、共和党支持者は気候変動に懐疑的・否定的な割合が高いので、今回の研究結果はそれを裏付けていると言えるでしょう。

  また、新生態学的パラダイム(個人がどれくらい環境に配慮するかの指針のようなもので、環境に対する人間のインパクトを最小限に抑えることをよしとする考え)への意識が高い人ほど、気候変動を信じる傾向が強く、今回の研究ではこれが個人が気候変動を信じるかどうかを決める最も大きな要素となっているとしています。

  そして、気候変動の深刻さを認識し、自分も何かしたいと感じている人でも、自分が経済的な犠牲を払ってまで何かをすることに対しては消極的であるという結果も出ています。

  だからこそ、気候変動は複雑な問題であると言えるのかもしれません。

  とまあ、小難しく書くとこういう感じになるのですが、最後にわかりやすくまとめてみようと思います。

  リベラルな人たちが科学的事実に基づいて気候変動を信じるかどうかを決める傾向が強いのに対し、保守的な人たちは元々持っている個人のイデオロギーや世界観・政治的志向に基づいて気候変動を信じるかどうかを決める傾向が強いため、アメリカなどの保守(共和党)とリベラル(民主党)の対立によって気候変動対策が遅れている国においては、保守的な人たちにいくら科学的事実を並べたところで、最初から答えは決まっているのだから時間と労力の無駄でしかなく、この状況を打破するには、リベラル派が保守の世界観やイデオロギー、政治的志向に沿うように(環境問題に取り組むのは「愛国的」であるとか、気候変動対策は「国家安全保障」の問題であると提案するとか)、共通の解決策を見つけていく作業がとても重要であり、気候変動対策を迅速に進められるかどうかの鍵を握っているということでしょう。

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【参照】
Hornsey, M., Harris, E., Bain, P. & Fielding, K. Meta-analyses of the determinants and outcomes of belief in climate change. Nat Clim Change (2016). doi:10.1038/nclimate2943

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