グリーンランドを覆う氷床の表面が様々な原因で暗くなることにより、太陽エネルギーを反射する割合が減少し、氷の融解を加速させているという研究結果が科学誌「The Cryosphere」に掲載されました。
研究チームによると、1996年以降、グリーンランドの氷床のアルベド(太陽エネルギーを反射する能力)が10年あたりで2%落ちることによって夏の地表付近の気温が10年あたりで0.74℃上昇し、氷床の融解を加速させる原因になっているそうです。
主な地表のアルベドの例
Credit: Miami University
明るい地表ほど、宇宙から入ってきた太陽エネルギーを地球外へ反射することができます。この能力をアルベドと呼び、反射する太陽エネルギーの割合(%)で表します。上の図は、地表の主なアルベドの例を表したもので、積もったばかりの雪は太陽エネルギーを80%から95%反射する能力がありますが(雪のサイズと色によって割合が異なる。混入物がなく、サイズが小さい雪ほどアルベドが高い。普通の砂糖と粉砂糖を思い浮かべるとわかりやすいかも。粉砂糖の方がより白く見える)、表面が暗いアスファルトは5%から10%しか太陽エネルギーを反射しません。逆に言えば、雪はあまり熱を吸収しませんが、アスファルトは多くの熱を吸収し、地表の気温を上げる原因になります。つまり、アルベドが高ければ高いほど温暖化を避けることができ、低ければ低いほど温暖化を加速させることになるのです。
北極の海氷の減少が加速しているのも、気温が上昇することで氷がとけ(白い表面が減少)、暗い海水面が多くなり、より多くの太陽エネルギーを吸収して海水温が上昇し、それが大気に伝わって気温を上昇させることによってさらに氷がとけるという、歓迎できないループが起こっているためです。
グリーンランドのカンゲルルススアーク付近を上空から捉えた写真。写真左の青い部分は雪解け水でできた湖。真ん中の白い部分は雪や埃、ちりなどを含まない裸氷。右の灰色部分は埃やちりなどを含んだ雪。
Credit: Marco Tedesco
話を研究結果に戻すと、グリーンランドでも基本的にこれと同じ現象が起こっているということです。研究では、降り積もる雪に含まれていたり大気から舞い落ちる埃やちり、すすや黒色炭素が増加し(上の写真の右側の灰色の部分)、夏の間に雪や氷がとけてそれらの粒子が表面を覆う地域も増加(雪解け水に乗って粒子が流されるため)、さらに雪解け水でできた池や湖(上の写真の左側の青い部分)、裸氷(写真真ん中の白い部分)など、積もったばかりの雪よりもアルベドが低い表面が増加することによって、グリーンランド全体のアルベドが低くなってきていると指摘しています。
また、今後はこれらの現象がさらに進むために氷床表面が暗くなり、今世紀末までには太陽エネルギーを反射する能力が10%落ち、氷床の融解を一段と加速させると研究チームは推定しています。
そして、大気中の温室効果ガスが増加している間は、この現象がなくなって氷床が増加し始めることはありません。
今後考えられる最悪のケースは、今回の研究で示された現象が続いて氷がとけ続け、氷が存在する場所の標高がそれにともなって低くなり、より暖かい空気に触れるようになるために、さらに氷がとけやすくなるというフィードバックループに陥ることです。
何よりも、とけた氷は海に流れ着き、海面を上昇させます。グリーンランドの氷床がすべて融解すると、海面は7メートル上昇すると言われています。
温暖化が進み、アルベドが低くなることで氷がさらにとけるフィードバックが加速する現象について、研究の筆頭執筆者はこう述べています。
「下り坂を走る列車みたいなものです。そして、その下り坂はどんどん急になっているのです。」
【参照】
Tedesco, M. et al. The darkening of the Greenland ice sheet: trends, drivers, and projections (1981-2100). Cryosphere 10, 477-496 (2016).
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