内戦に加え、長引く干ばつに見舞われているシリアですが、内戦が始まる以前からレバント地方で続いてきた長期的な干ばつは、近代において最も深刻なだけではなく、最低でも過去500年間、最大で過去900年以上の歴史の中で最悪の干ばつだったという研究結果(Cook et al. 2016 )が科学誌「地球物理研究ジャーナル(Journal of Geophysical Research)」に掲載されました。
この研究は、樹木の年輪を用いて地中海地方の3つの地域(地中海西部、ギリシャ、レバント地方)の干ばつを過去900年にわたって調査したもので、ここまで遡った研究は初めてと言われています。研究では、干ばつの原因について特定していませんが、自然変動だけでは説明しきれない部分があるため、地球温暖化の影響があるのではないかと指摘しています。
地中海各地における干ばつの状況。(上)1980年から2012年までの地中海西部、ギリシャ、レバント地方における干ばつ指数の平均。(下)1950年から2012年までの、地中海西部、ギリシャ、レバント地方における干ばつ指数の平均。
Credit: Cook et al. 2016
このグラフを見ると、地中海の干ばつがここ数年間だけでなく、1980年代以降ずっと続いてきた問題であることがわかります。よくないことに、このまま温暖化が進めば地中海地方の干ばつはさらに深刻化すると予測されています。
そして、昨年(2015年)には、肥沃な三日月地帯における観測史上最悪の干ばつが2011年に始まったシリアの内戦のきっかけになったとする研究結果(Kelly et al. 2015)も発表されています。
シリアで内戦が始まるまでに起こった主な社会的及び気候的出来事のタイムライン。Kelly et al. 2015の研究論文からClimate Centralが抽出して作成したもの。
Credit: Climate Central
コリン・ケリー氏らの研究では、上図のように、シリア国内の社会的出来事と、断続的な干ばつが最終的に内戦勃発に繋がっていったと指摘しています。
気候変動が大きな原因というわけではありません。現在の大統領が就任した後の農業政策の失敗(農業用水として地下水を大量に利用し枯渇させた)に度重なる干ばつが追い打ちをかけ、そこに隣国であるイラクへの米軍侵攻によって大量の難民が流入し、爆発的な人口増加と長引く干ばつの深刻化による農作物の不足が内政を不安定にさせ、ついに内戦が始まってしまったというのが大ざっぱな流れです。
そして、このシリアにとって観測史上最悪の干ばつは、気候変動によって起こる確率が3倍になったと研究は指摘しています。また、米海洋大気局(NOAA)が2012年より毎年発表している研究論文「気候から読み解く異常気象2014年度版」でも、シリアの南レバント地方の干ばつには気候変動の影響が見られたと結論づけています。
シリアの内戦の原因が地球温暖化であると言うことはできませんが、その遠因となった長期的な干ばつは地球温暖化によって起こりやすい状態になっていたと言えます。
これら以外にも、紀元前1万年から現代までの合計45の紛争と気候の関連性を調べた研究によると、平均的な気象現象や気候よりも1σ(標準偏差)以上の極端な気象現象や気候になると、グループ間で紛争の起こる確率が14%、個人間で争いが起こる確率が4%高くなるという結論に至っています。今後も同じ傾向が続くとすれば、将来的に気候変動が紛争の一因となる可能性があるそうです(Hsiang et al. 2013)。
地球温暖化の原因の大半は、人間活動による大量の温室効果ガスの排出です。私たちの生活様式が、特定の地域の気候や内政を不安定にさせ、紛争を起こし大量の難民を発生させる原因の一部になっているのです。
【参照】
Cook, B., Anchukaitis, K., Touchan, R., Meko, D. & Cook, E. Spatiotemporal drought variability in the Mediterranean over the last 900 years. J Geophys Res Atmospheres n/a–n/a (2016). doi:10.1002/2015JD023929
Hsiang, SM, Burke, M & Miguel, E. Quantifying the influence of climate on human conflict. Science (2013).
Kelley, C. P., Mohtadi, S., Cane, M. A., Seager, R. & Kushnir, Y. Climate change in the Fertile Crescent and implications of the recent Syrian drought. Proceedings of the National Academy of Sciences 112, 3241–3246 (2015).
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