アメリカのメディア報道監視団体「メディア・マターズ(Media Matters)」は、2015年に米主要メディアがニュース番組において気候変動問題を扱った時間が2014年と比較して減少したというレポートを発表しました。
2015年は、気候変動関連のニュースが最も豊富な年で、アメリカにとってもそれは例外ではありませんでした。世界のとんでもない平均気温の高さと比較すると涼しかった(という表現が正しいとは思えませんが)ものの、それでも2015年はアメリカにとって観測史上2番目に暖かい年になりました。その他にも、ローマ法王による気候変動問題への言及、すでに司法省が捜査を開始しているエクソンモービル社の長年にわたる気候変動に関する情報の隠蔽、クリーンパワープランの施行、オバマ大統領による歴史的なキーストーンXLパイプライン建設の却下、そして気候変動問題にとって過去最も大きな出来事となった、COP21における195ヶ国による「パリ協定」の合意では中心的な役割を果たすなど、これほど気候変動関連の話題が尽きない年はありませんでした。しかし、主要メディアは気候変動問題の重要性を反映させず、ニュース番組で取り上げる時間を2014年よりも減らしました。
上のグラフは、ABC、CBS、NBC、Foxの各局が、夕方と週末の主要ニュース番組で気候変動問題を扱った時間の合計です。2015年の合計は、2014年よりも5%少ない146分に過ぎませんでした。
これは、2014年と2015年にテレビ各局が気候変動問題に費やした時間を比較したグラフです。Foxニュースが2014年よりも気候変動問題を20分長く扱っているのに対し、ABCは20分減っています。保守的で気候変動問題に関して常に否定的な見解を放送するFoxニュースの時間が増えているのは不思議な感じがしますが、これは2014年よりも20分長く気候変動を否定したに過ぎません。ある意味では、気候変動問題の話題の豊富さを反映しているのかもしれません。
このグラフは、上述のテレビ局に加え、公共放送であるPBSが気候変動に関する主な話題を扱ったコマ数を表しています。PBSが多くのコマをそれぞれの話題に割いていることがわかります。また、リベラル局であるNBCも気候変動問題を積極的に扱っていますが、それでも米環境保護庁によるメタンガス排出量削減計画や、エクソンモービル社の気候変動の深刻さに関する情報を隠蔽した問題に関してはまったく取り上げませんでした。Foxニュースは先ほども触れた通り、それぞれの多くの時間を各トピックの批判に費やしています。
これは、気候変動が与える主な影響について、各局がどれだけのコマ数を使ったかを表したグラフです。極端な気象現象が多かったため、それらに多くのコマが割かれたのは自然なことだと思いますが、気候変動の健康への影響や、気候変動が国家安全保障を脅かす問題であることをあまりにも軽く扱いすぎている印象を受けます。このようなカバーの少なさが、アメリカにとって気候変動が安全保障上の脅威であることをオバマ政権が度々訴えているにもかかわらず、アメリカ人のわずか3%しか気候変動をアメリカにとって最も重要な問題であると認識していない原因になっていると思われます。
現在、アメリカはオバマ氏の後を継ぐ大統領指名候補レースの真っ最中ですが、テレビ各局が行う指名候補の討論会では気候変動に関する質問が少ないと批判されています。民主党の指名候補であるバーニー・サンダース氏とヒラリー・クリントン氏は、質問されなくても自ら積極的に気候変動関連の話をしますが、共和党指名候補の討論会ではほぼ完全に無視されています。フロリダ州で行われた討論会で、テレビ局のアナウンサーからではなく視聴者からの質問として、同じ共和党所属のフロリダ州マイアミ市長が、気候変動の科学がコンセンサスを得ていることと人間活動に原因があることを認めるかどうかを、フロリダ州選出のマルコ・ルビオ候補に問いただした以外に、気候変動が話題にのぼったことはありません。
インターネットが普及して、ニューヨークタイムズ紙やワシントンポスト紙を含む主要メディアによる気候変動に関する知識をオンラインで得ることは容易になりましたが、それでもテレビのニュース番組の影響力にはまだまだ及びません。気候変動の破滅的な影響を避けるためには、その深刻さをより多くの人に伝えること、そして世論による効果的な気候変動対策を政府や自治体へ要求するムードの高まりが不可欠です。
アメリカの主要メディアは、その責任を果たさなければなりません。
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