2100年までに、地球温暖化による海面上昇と人口増加が原因となり、アメリカの沿岸地域で最大で1300万人が移住を余儀なくされるかもしれないという研究結果(Hauer et al. 2016)が、科学誌「ネイチャー・クライメートチェンジ」に掲載されました。
これまでに発表された研究では、現時点での数字を用いて海面上昇の影響を受ける人口を推定していましたが、それでは実際に影響を受ける人口よりも数字が低くなってしまい正確性に欠けるため、この研究では2100年までの人口の増減傾向と海面上昇の予測を組み合わせ、アメリカのすべての沿岸地域を郡ごとに分析しました。
2100年までに海面が1.8メートル上昇した場合に影響を受ける沿岸地域の郡ごとの人口の割合と、主な郡で影響を受ける人口。
Credit: National Geographic
その結果、最悪のシナリオでは海面が約1.8メートル上昇し、浸水する地域に居住する約1310万人が移住を迫られることになるかもしれないと指摘しています。また、楽観的なシナリオの場合でも、海面上昇は90センチに及び、最大で約420万人が移住を余儀なくされるかもしれないとしています。
最も影響を受けるのはフロリダ州で、最悪のシナリオの場合では約600万人と、全体の約46%を占めています。その他の地域では、カリフォルニア州とルイジアナ州でそれぞれ約100万人が移住を迫られることになるかもしれません。また、フロリダ州やルイジアナ州を含む米南東部が影響を受ける人口の70%を占め、海面上昇に対する脆弱さを露呈しています。
研究の筆頭執筆者であるハウアー氏は、今回の研究結果で算出された影響を受ける人口はこれまでの推定の約3倍にあたり、過去の研究が海面上昇の影響を小さく見積もっていたことを指摘しています。
しかし、今回の研究結果について、専門家からは、海面上昇の影響を確実に受ける地域の人口が著しく増加する見積りに対する疑問や、地域によって海面上昇のペースが違うこと、沿岸地域によって海面上昇に対する適応能力が違うことなどが指摘されています。
海面上昇は、海洋の温暖化による熱膨張と、グリーンランドや南極大陸の氷床、陸地の氷河の融解などが原因ですが、グリーンランドと南極大陸の氷床が今後どれくらいのペースでとけるのか、まだ不確かな点が多いため、過去2800年で最速のペースで進んでいると言われる海面上昇が今後も同じペースで進むのか、今回の研究のように2100年までに1.8メートル上昇することになるのかはわかりません。
すべては、ここ数年加速しているような印象を受ける気温上昇と、グリーンランド(氷床融解が加速しているという研究結果あり)と南極大陸の氷床がとけるペース次第と言えるでしょう。
でも、今回のような研究結果は、影響を受けるとされる沿岸地域の州や市、郡などの自治体が、海面上昇対策を講じるための参考にできると思います。海岸線のインフラ等をを海面上昇に適応させるのか、それとも住民を移住(アラスカのケースでは移住費用は住民ひとりあたり100万ドル/約1億1千2百万円と言われており、今回の研究ではすべての人を移住させると、その費用は2014年の価値で最大総額14兆ドル/約1600兆円)させるのか、その判断材料として、このような研究結果の精度がより上がっていくことが期待されます。
【参照】
Hauer, M., Evans, J. & Mishra, D. Millions projected to be at risk from sea-level rise in the continental United States. Nat Clim Change (2016). doi:10.1038/nclimate2961
Americans in Danger From Rising Seas Could Triple|National Geographic
【あわせて読んでほしい記事】
この記事へのコメント