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気候変動の科学に興味を持っている人なら、約5600万年前に起こった暁新世(ぎょうしんせい)・始新世(ししんせい)境界温暖化極大期(Paleocene-Eocene Thermal Maximum、以下PETM)という言葉を見聞きしたことがあるのではないでしょうか。
現在のところ多くの謎に包まれた、「なんかよくわからんけど急に温暖化した時期」のPETMは、突然二酸化炭素濃度が上昇し、数千年という地質学的に短い期間で地球の平均気温が5℃上昇しました。二酸化炭素を取り込んだ海洋の酸性化も急速に進み、海洋生物の大量絶滅に繋がった時期でもあります。
PETMの原因については諸説あります。北極圏の永久凍土の融解によって大量の炭素が大気中に放出されたという説もあれば、海底から大量のメタンガスが放出されたという説もありますが、今もまだ「なんかよくわからんけど急に温室効果ガスが増えて急激に温暖化した時期」のままです。
ただ、二酸化炭素濃度が急激に高くなって気温も急上昇したことから、現在の二酸化炭素濃度と気温の上昇と似た要素があり(二酸化炭素の濃度は現在の5倍以上あったようですが)、研究を進めることで今後の気候変動を予測するうえで役立つのではないかと考えられてきました。
そして今回、現在の二酸化炭素排出ペースがそのPETMよりも遙かに速く、約10倍にも及ぶという研究結果が科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス」に掲載されました。つまり、数千年で気温が5℃上昇したPETMの約10倍のペースで二酸化炭素を大気中に放出し続けているということです。
論文執筆者らは、米ニュージャージー州沖で採取して海洋堆積物の放射性酸素同位体と放射性炭素同位体を分析し、炭素放出の時期と気温が上昇した時期を比較したところ、ふたつの現象がほぼ同時期に起きていたことがわかりました。また、PETMの炭素放出量が4000年にわたり1年あたり6億トンから11億トンであったことも判明しました。現在の炭素放出量が年間約100億トンなので、現在はPETMの9倍から17倍のペースで炭素を放出していることになります。基本的に、速いペースで大気中の二酸化炭素の濃度が上昇すれば、それに呼応する変化も急激なものになると考えられます。
研究は、「現在の炭素放出が新生代(約6600万年前から現在まで)を通じて前例のないペースで進んでいることから、私たちは事実上過去に類を見ない新しい時代に入っており、未来の気候を予測することに根本的な課題を突きつけられている」と締めくくっています。
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【参照】
Zeebe, R., Ridgwell, A. & Zachos, J. Anthropogenic carbon release rate unprecedented during the past 66 million years. Nat Geosci (2016). doi:10.1038/ngeo2681
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