南極の氷が予測より速く融解  今世紀中に2メートルの海面上昇も

  このまま気候変動対策をとらずに現在のペースで温室効果ガスの排出を続けると、南極大陸の氷が従来の予測よりも速いペースで融解し、今世紀末までに南極の寄与分だけで最大1.05メートル海面が上昇する可能性があるという研究論文が科学誌「ネイチャー」に発表されました。

  最新のIPCCレポート(AR5)は、今世紀中の海面上昇は最悪のシナリオ(RCP8.5)で平均74センチ(52センチ~98センチ)と予測していますが、そのうち南極の寄与分は最大で約18センチとされています。今回発表された研究では、南極大陸の氷の融解だけで64センチから1.05メートルの海面上昇に繋がる可能性があるため、その他の寄与分を合わせると、最悪のケースでは今世紀中に海面が最大で約2メートル上昇する恐れがあります。

  また、同研究では南極大陸の氷の融解による2500年までの海面上昇を約13メートルから15メートルと予測しています。これは、2100年以降の海面上昇が1世紀につき最大で約3メートル(10年あたり約30センチ/1年あたり3センチ)のペースになることを意味しています。現在の海面上昇のペースが1年あたり3.42ミリであるにもかかわらず高潮や浸食の被害が相次いでいることを考えると、その10倍近い速さで海面が上昇すると適応できない地域が出てくると思われます。

  米マサチューセッツ大学の気象学者のロバート・デコント(Robert DeConto)氏と米ペンシルベニア州立大学の気象学者のデービッド・ポラード(David Pollard)氏からなる研究チームは、300万年前と12万5千年前に起こった温暖化による南極大陸の氷の融解と海面上昇から、これまで南極での研究には用いられなかった、「水圧破砕」と「棚氷と氷崖の崩壊」というふたつの新たなメカニズムをコンピュータモデルに組み込んでシミュレーションを行いました。概念そのものは決して新しいものではなく、これまでにグリーンランドでも見られていた現象なのですが、ここまで大規模なシミュレーションは初めてで、他の研究者からも高い評価を受けています。

  南極大陸の棚氷が融解するメカニズムは以下のようになっています(図はワシントンポスト紙の記事より)。

DeCont and Pollard et al 2016 01.jpg

  先日のジェームズ・ハンセン氏らの研究結果の記事でも同じようなメカニズムを紹介しましたが、まず、海洋の表層部の暖かい海水が、氷床が重力によって張り出してくることによって出来る棚氷を下から融解させます。このときに、棚氷の下部と海底が接している部分も融解し、海底が沈み込むのに合わせて後退していきます。

DeCont and Pollard et al 2016 02.jpg

  棚氷の上の暖かい大気と雨によって表面がとけ、亀裂が生じます。そこに水が流れ込み、膨張時の水圧で棚氷が割れて分離していきます(水圧破砕。上図の2を参照)。そして、棚氷が分離したあとに残った氷崖の底部を暖かい海水がさらに融解することによって不安定になり、重みに耐えきれなくなった海面上の氷崖は、海へと崩れ落ちることになります(上図の3を参照)。

  そして、崩壊した棚氷があった場所に大陸の氷床が前進し、海上にせり出してまた新たな棚氷を形成します。すでに海上にせり出している棚氷が崩壊しても海面上昇につながることはありませんが、新たな棚氷を形成するために海上へせり出してくる大陸の氷床部分が海面上昇の原因となります。

  このような現象によって、最悪のシナリオの場合では今世紀中に南極だけで海面を1メートル上昇させることになると指摘していますが(執筆者の1人であるポラード氏は今回の研究結果について最悪のシナリオの中でも中間くらいの値に基づいており、これが最悪のシナリオではないと述べていますが)、迅速な気候変動対策の実行によって温室効果ガスの排出量を急激に削減することができれば、90%の確率で南極大陸の氷の融解による海面上昇をほぼ防ぐことができると研究者は述べています。

  IPCCの報告書における海面上昇の予測は、海洋の温暖化による海水の膨張が主要因となっており、グリーンランドと南極大陸の氷の融解の寄与分はとても小さく見積もられていました。これは、単に氷の融解メカニズムが未解明で予測困難なことが原因でした。上述した、現在よりも1℃から2℃気温が高かった約12万5千年前の最終間氷期の海面は現在よりも5メートルから9メートル高く、また、現在よりも気温が2℃から3℃高く大気中の二酸化炭素レベルが現在とほぼ同じ400ppmだった300万年前の温暖期の海抜は最低でも6メートル高かったという研究結果があります。このように規模の大きな海面上昇は、グリーンランドと南極大陸の氷の融解が起こらなければ説明がつかないのですが、どのようなメカニズムに基づいて起こったのかは不確かでした。

  今回の研究結果は、氷が融解するメカニズムと未来の海面上昇をより正確に予測するうえで極めて重要な叩き台になると考えられ、今後さらにこの分野の研究を加速させることに繋がると思います。

  研究論文が同じ週に発表されたため、今回の研究とジェームズ・ハンセン氏らの研究が比較されていますが、「現在の気候変動対策では氷の融解を抑えて壊滅的な海面上昇を防ぐには不十分」というメッセージを発信している点は共通しています。

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【参照】
DeConto, R. & Pollard, D. Contribution of Antarctica to past and future sea-level rise. Nature 531, 591–597 (2016).

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