人為的気候変動によって、アメリカの人々のありとあらゆる健康リスクが深刻化しており、今後も温暖化に伴ってさらにそのリスクが高まることになるというレポートを米政府が発表しました。
「The Impacts of Climate Change on Human Health in the United States: A Scientific Assessment」は、米環境保護庁(EPA)、保健福祉省、米海洋大気局(NOAA)が共同で、約1800の研究論文と新たなリサーチを元に執筆し、全米科学アカデミーによるレビューを受けて発表されました。
332ページにも及ぶレポートは、大気や水、食料の汚染による健康被害、ダニや蚊などを媒介にした疾病の増加、長引くアレルギーシーズン、熱波による死者の増加、極端な気象現象の被害者が受ける精神的ダメージなど、人為的温暖化による健康へのリスクについて広くカバーしています。
掲載されている事例の中に、新たに発見された事実は含まれておらず、どれもこれまでに研究結果やレポートとして発表されてきたことばかりですが、アセスメントとしてまとめると気候変動がいかに私たちの日常生活の中に入り込んで悪影響をもたらしているのかがよくわかります。
また、これは米政府が発表したアメリカ人の健康リスクに関するアセスメントですが、地域差はあっても世界中の人が直面する共通のリスクであると考えていいでしょう。
レポートに掲載されている代表的な例を挙げてみましょう。
- 夏期の熱波による早期死亡が、2030年までに1990年比で年間に11,000人増加。2100年までにこの数字は27,000人まで増加する。冬季の寒波による死者は減少傾向に。
- すでに子どもが緊急治療室を訪れる最も大きな原因となっているぜんそくや呼吸器疾患が、大気汚染によって増加と悪化の一途を辿る。
- 二酸化炭素の増加によって麦や米などを代表とする食料の栄養価が落ちるため、栄養不足が懸念される。
- 高温と天候の影響を受けてサルモネラ菌やノロウィルスなどが発生しやすくなる。
- 気温上昇に伴い、花粉症などのアレルギーシーズンが早く始まり、遅くまで続く(ブタクサの花粉が飛散する期間が、2011年には1995年と比較して27日長くなっている)ことによってアレルギー症状が悪化する。
- ダニや蚊などを媒介にした伝染病(ライム病や西ナイル熱、ジカ熱など)の発生地域が気温上昇に伴って拡大し、流行する期間も長くなる。
- 水温の上昇によって病原菌が繁殖しやすくなり、水を媒介にした疾病への罹患が増加する。
- 極端な気象現象を経験することによるPTSDの発症や、極端な気象現象の被害を心配することによる不安や鬱病などの精神疾患が増加する。
そして、すべての人に対して平等にこれらの影響が及ぶわけではありません。低所得層、有色人種が多く住む地域、英語力が低い移民グループ、先住民、子ども、妊婦、高齢者、障害者、慢性的な持病を抱える人たちは、気候変動に対してとても脆弱なため、健康リスクも高くなります。
気候変動はすでに起こっており、今すぐに温室効果ガスの排出量をゼロにしても気温は上昇を続けるため、上述した事例の多くを未然に防ぐことは不可能です。しかし、早期に野心的な気候変動対策をとれば、すべての事例を軽減し、亡くなる人や病気になる人を減らすことができます。
行動を起こすのか起こさないのか、選択するのは私たちです。
【参照】
USGCRP, 2016: The Impacts of Climate Change on Human Health in the United States: A Scientific Assessment. Crimmins, A., J. Balbus, J.L. Gamble, C.B. Beard, J.E. Bell, D. Dodgen, R.J. Eisen, N. Fann, M.D. Hawkins, S.C. Herring, L. Jantarasami, D.M. Mills, S. Saha, M.C. Sarofim, J. Trtanj, and L. Ziska, Eds. U.S. Global Change Research Program, Washington, DC, 312 pp. http://dx.doi.org/10.7930/J0R49NQX
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