世界中で新たに建設されている石炭火力発電所をはじめ、建設計画中であったり環境アセスメントが行われている段階の石炭火力発電所への投資額約1兆ドルが無駄になってしまう可能性があるというレポートを、国際環境保護団体のコールスワーム、シエラクラブ、グリーンピースが共同で発表しました。
現在建設中及び建設が計画されている石炭火力発電所は、気候変動対策の実行や大気汚染防止のために、建設されたとしても100%のキャパシティを満たす運転が行われるとは限らないため、計画から建設に至るまでの投資額が無駄になってしまう恐れがあるとレポートは指摘しています。
レポートによると、世界中で現在建設中及び建設計画中の石炭火力発電のキャパシティは約1500基分に相当します。もしもそれらの石炭火力発電所が寿命(40年)までフル稼働すると、昨年(2015年)195ヶ国が合意した「パリ協定」の「2100年までの気温上昇を産業革命前比2℃未満に抑える」という目標の達成が困難になります。
しかし、化石燃料による発電量は減少傾向にあります。例えば、中国では既存の発電所の稼働率は約50%で、石炭の消費量も減少、約半分の省で石炭火力発電所の新規建設許可の発行が中断され、250基がその影響を受けています。
このように、たとえ建設されたとしても、運転しなければ投資は無駄になる可能性があるのです。
地域ごとの石炭火力発電所建設計画とキャパシティ(単位:メガワット)
Credit: Boom and Bust 2016
上の表は、世界各地域における建設中及び建設計画中の石炭火力発電所の発電量をまとめたものです。赤で囲んだ部分が、現在計画中(左側)と建設中(右側)の石炭火力発電所の発電量のキャパシティです。計画中の発電所のキャパシティが1,085ギガワット、建設中の発電所のキャパシティが338ギガワットあり、これは石炭火力発電所1500基分の発電量に相当します。
内訳を見ると、計画中と建設中を合わせて、アジアだけで世界全体の87%、日本や中国を含む東アジアに52%の石炭火力発電所が集中しています。
地域ごとの計画中・建設中の石炭火力発電所からの予想される二酸化炭素排出量(単位: 百万トン)
Credit: Boom and Bust 2016
この表は、上述した計画中及び建設中の石炭火力発電所がすべて建設され、40年間稼働した場合に予想される二酸化炭素排出量です。現在建設中の発電所が完成して40年間稼働すれば58ギガトン(GtCO2)の排出量に、計画中の発電所が建設後稼働すれば排出量は約186GtCO2になります。
2100年までの気温上昇を産業革命前比2℃未満に抑えるために人類が排出できる二酸化炭素の量は1,832GtCO2なので、1500基分に相当するこれらの発電所がすべて計画通りに建設されてフル稼働すると、リミットの13%を占める二酸化炭素を今世紀半ば過ぎまでに排出してしまいます。
1年あたりに換算すると、これらの発電所からの二酸化炭素排出量は6.1GtCO2になります。2℃未満を達成するために排出できる二酸化炭素の量は年間21.6GtCO2なので、ある時点までその28%を占めることになります。
世界全体で1年あたりに約32GtCO2排出している二酸化炭素排出量を急速に削減しなければならないのに、既存の火力発電所からの排出量に1年あたり6.1GtCO2の二酸化炭素が上乗せされれば、2℃未満の目標達成は相当困難になることが予想されます。しかも、これは「石炭火力発電所」だけで、天然ガスや石油火力発電所からの二酸化炭素排出量は含まれていません。
このように、計画中及び建設中の石炭火力発電所が建設後40年間フル稼働すれば、排出される二酸化炭素によってさらに温暖化が加速し、建設されても稼働しなければ(レポートでは2010年から2015年までの稼働率を基にコストを算出)これらの発電所を建設、稼働させるためのコストである9810億ドル(約106兆円)が無駄になり、どちらにしても社会にとっては大きな損失になってしまいます。
また、これまでに何度も述べてきましたが、石炭火力発電所の問題点は温室効果ガスだけではありません。大気汚染やそれに伴う早期死亡(レポートでは既存の石炭火力発電所による大気汚染で年間80万人が亡くなっており、新規計画中・建設中の石炭火力発電所による早期死亡を年間13万人と推定)や石炭採掘時の事故による死傷者、環境汚染とそれによる健康問題、石炭灰による水質汚染など、問題は多岐にわたります。
新規に建設されている、または計画中の発電所の大半が中国やインドをはじめとする発展途上国に分布しています。電気の普及や経済成長のために安価なエネルギーの安定供給が不可欠であることがその大きな要因です。しかし、気候変動への寄与に加え、その他の環境汚染や健康被害等の社会的コストを考慮に入れると、石炭火力発電所がベストの選択であるとは言えません。
ただ、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは現段階において断続的な電力供給能力しかないため、今すぐに石炭火力に取って代わることはできないと思われます。再生可能エネルギーによる電力を貯めておくストレージや、火力発電所+炭素回収・貯留技術など、新たなテクノロジーの開発と実用化を急がなければなりません。
今回は触れませんでしたが、日本の石炭火力発電所の建設計画と、途上国への投融資について、別の記事で触れる予定です。
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