雲が気候変動に与える影響は、気候科学の中でももっとも複雑で不確かな点が多い分野のひとつです。雲は、太陽からの放射エネルギーを宇宙へ向かって反射して温暖化を抑制する役割も果たしますが、地表から宇宙へ放射される熱を閉じ込めて地表を温める役割も持っています。これまでの研究では、温暖化を抑制する効果よりも、熱を閉じ込めて気温を上げる効果の方が大きいという説が有力ですが、まだ確立した科学ではありません。
その理由には、雲は地球の約70%を覆っており、形成される高度も、雲に含まれている水蒸気の量や圧力も、液体と氷の割合も違うことなどが挙げられます。また、現在のコンピューターモデルは、地球全体を細かい区分に分けてそれぞれの区分内でシミュレーションを行っていますが、雲はその区分の範囲を超えて形成されることが多いため、精密なシミュレーションを行うことが大変難しいのです。
今回、米エール大学と米ローレンス・リバモア国立研究所のチームが雲に含まれている液体と氷に注目してコンピュータモデルでシミュレーションを行ったところ、従来の研究と比較して氷よりも液体の方が多く、温暖化抑制効果がこれまで高く見積もられていたため、二酸化炭素濃度が産業革命前の2倍になった場合の気温上昇が、IPCC報告書の4.6℃ではなく、最大で5.3℃になる可能性があるという研究結果を科学誌「サイエンス」に発表しました。
液体をより多く含んだ雲は、より太陽エネルギーを反射します。そして、現段階で雲がより多くの氷を多く含んでいれば、その分だけ今後気温が上昇したときに多くの液体が生じるため、温暖化を抑制する効果は高くなります。しかし、今回発表された研究では、氷の量がこれまで考えられていたよりも少ないため、今後の温暖化抑制効果が低くなり、二酸化炭素濃度が2倍になった際の気温上昇が、最も一般的な数値であるIPCC報告書の2℃から4.6℃ではなく、5℃から5.3℃になると結論づけています。
この研究結果に対しては懐疑的な意見が多く、米航空宇宙局(NASA)ゴッダード宇宙研究所の気候科学者であるギャビン・シュミット氏と、雲の気候変動への寄与を専門分野にしているテキサスA&M大学の気候科学者のアンドリュー・デスラー氏は、複数のコンピュータモデルを用いた多角的なアプローチではなく、ひとつの気候モデルとひとつのアプローチによって分析された今回の研究結果には不確かな要素が大きいため、結論を出すことはできないと指摘しています。
現段階ではコンピュータモデルの能力の問題もあり、雲による気候変動に対する影響はまだまだ不確かな点が多い分野ではありますが、テクノロジーの進化と共に観測データが充実すれば、精密なシミュレーションが可能になり、信頼性の高い研究が増えてくると思います。
【あわせて読んでほしい記事】
この記事へのコメント