デンマークの気象庁によると、例年は5月末から6月初旬に融解を始めるはずのグリーンランドの氷床が、1ヶ月半以上早い4月11日にとけ始めたそうです。
北極圏の氷全般を観測しているデンマークの気象庁運営の「Polar Portal」では、融氷シーズン開始の定義を「グリーンランドの氷床面積の10%以上の表層部分が1ミリメートル以上融解したとき」としていますが、2016年4月11日にグリーンランド南西部で約12%の氷床が融解したため、融氷シーズンが始まったと判断しました。
左: 南部(大部分が南西部)の赤い部分が2016年4月10日と11日に氷床が融解した地域。右:グレーのラインが1990年から2013年の融氷率の平均。青いラインが今年の融氷率。 Credit: Polar Portal
上の地図(左側)は、グリーンランドの4月10日と11日の氷床の融解状況を表したものですが、南部の赤い部分が融解した地域で、4月11日には融解した氷床がグリーンランド全体の約12%になりました。
これは、昨年から北極圏の気温が高くなっていることに起因しますが、4月に入ってからもグリーンランドの一部では最高気温17.8℃を記録しました。また、標高1840メートルの場所でも日中の最高気温が3.1℃を記録、氷床の最も高い場所でさえ平年よりも22℃高い氷点下6.5℃まで気温が上昇するなど、異常な暖かさになっています。
グリーンランドでこれまでに最も早く融氷シーズンが始まったのは2010年の5月5日で、1990年と2006年の5月8日がそれに続いています。これらの記録と比較しても、今年は約1ヶ月早く融解シーズンが始まったことになります。
2016年4月13日における北極圏の平均気温との偏差の予想。地図横のバーの数値は華氏表示の気温。グラフ枠右肩に偏差の最低値と最高値の表示あり。Credit: Climate Central
今週末まで異常な高温が続き(上の地図では、4月13日の予報で平年より最大31.7℃高くなる地域があると)、さらに氷床が融解すると予想されていますが、このまま夏まで融氷シーズンが続くわけではなく、気温はまた氷点下に戻り、とけた水は再凍結します。しかし、雪解け水が再凍結すると雪よりもとけやすくなるため、夏の本格的な融解シーズンに例年よりも大量の氷床がとける可能性が高くなります。
2002年4月から2015年4月までのグリーンランド氷床の質量の変化(単位: ギガトン)。オレンジ色のアスタリスクは4月。Credit: NOAA Arctic Report Card 2015
上のグラフは、2002年4月から2015年4月までのグリーンランドにおける氷床の質量の変化を表しています。2002年の4月を基準にすると、13年間で3000ギガトン以上の氷が融解しています。
これまでに何度かグリーンランドの氷床について記事にしてきました。グリーンランドの氷床がすべてとけると約7メートルの海面上昇に繋がるほか、とけた淡水が海に流入することによって熱塩循環の速度を落とす原因になる可能性があることや、北極点と自転軸を移動させる原因となるなど、その影響は深刻です。また、近年は氷床の表面が暗くなることでさらに融解が加速しているという研究結果もあります。
そして、とけた水は氷床表面で川を作り、最終的に氷床の下部に辿り着き、陸地と氷の間を流れることによって、氷床の海への流入を加速させていることがわかっています。より多くの氷床がとけることは、さらなる氷床流入の加速に繋がるのです。
このように、気温上昇によるグリーンランドの氷床の融解は深刻な問題を同時に引き起こし、さらに気温上昇が続けば、これらの現象が加速度的に進むことになり、いつかの時点で後戻りが不可能になってします(すでに不可能なのかもしれません)。
そして、グリーンランドを含む北極圏で起こっている様々な現象の影響は、グリーンランドと北極圏内にとどまることはありません。私たちが生活している中緯度地域に極端な気象現象による被害をもたらすなど、大きな影響を与えているのです。
【あわせて読んでほしい記事】
【参照】
Unusually Early Greenland Melt|Danish Meteorological Institute
この記事へのコメント