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以前に『島しょ国は海面上昇だけではなく水不足の被害も受けることになるという研究結果』という記事で、小さすぎて気候モデルのグリッドでは海と同じ扱いになっている島しょ国の70%以上、約1600万人が、2050年までに海面上昇だけではなく深刻な水不足の影響まで受けることになるという話をしました。
もっと極端な表現をするならば、少なくない数の島しょ国(たとえたったひとつでも多い)が、干ばつの被害を散々受けてから海に沈むことになる、ということです。気温が2℃上昇すれば、それに伴って海面は数百年かけて4メートルから9メートル上昇するという研究結果や、今世紀中だけで2メートル以上海面が上昇する可能性があるとする研究結果、もっと長期的に見れば1万年後には今よりも気温が7℃高く、海面は52メートル上昇するという研究結果まであります。
つまり、海抜の低い島しょ国はいずれ海に沈むことが保証されているのです。そして、沈む前に水不足によって農作物の不作や飲料水の枯渇、海水の井戸水や農地への侵入などの被害に遭うことになります。
島しょ国が受ける気候変動の影響といえば海面上昇によって沈むという印象しかないかもしれませんが、それよりもずっと前に高潮などで海水が陸地に侵入してしまい、人間生活が成り立たなくなり、海抜の高い周辺の島しょ国をはじめとする他国に気候難民として移住するしかなくなる日が来るはずです。
その責任の大部分は、温室効果ガスを大量に排出してきた先進諸国にあり、これは原因を作った国ではなく原因をほとんど作っていない国が気候変動の最も深刻な被害を受ける典型的な気候正義問題です。
先述したとおり、この島しょ国の70%以上、約1600万人が2050年までに深刻な水不足の影響を受けるという研究結果が発表されるまで、気候モデルは島しょ国を陸地としてシミュレーションする能力を持っていませんでした。言い方を変えれば、島しょ国が気候変動によって受ける海面上昇以外の深刻な影響について、これまで誰も研究をしてこなかったのです。
島しょ国のほとんどは人口も少なくて経済規模も小さく、決して経済的に豊かではありません。将来的に海面上昇の影響を受ける可能性の高い小さな島国が気候変動対策を計画・実施するのは容易なことではありません。先進国のような経済力も資源も技術力も労働力も持ち合わせていないのですから。本来ならば、気候変動の影響を最も受けやすい、環境の変化に脆弱な国々が気温上昇によって受ける影響に関する研究を最優先に進めなければならないはずなのに、先進諸国はその責任を果たしてこなかったために、多くの島しょ国が短期間で水不足にまで適応する必要が生じてしまいました。
貧しい島しょ国であるがゆえに、深刻な事態に繋がるかもしれない気候に関する研究さえもしてもらえない。これも、気候正義問題であると言っていいと思います。
そして、今後はこの研究結果によって明らかになった将来的な水不足とこれまでにすでにわかっていた海面上昇に適応するための費用と、適応できない場合に気候難民として移住するための費用を先進国が補償しなければならないはずなのですが、現段階では支払われる条件も将来的な出資額も不透明な「緑の気候基金」しか島しょ国が得られそうな資金はありません。しかも、この基金は本来島しょ国のためのものとして作られたはずなのに、いつの間にか島しょ国以外の国々に割り当てられるようになっており、問題視されています。
気候変動の原因を作っていないのにその影響を最も受ける人たちが本来得るべき補償を得ることができない、問題が顕在化されてもなお先進国の事情で貧しい島しょ国にさらに負担を強いる幾重にも重なった気候正義問題を早急に解決しなければなりません。
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