ラニーニャ現象って何?エルニーニョが終わると必ずラニーニャが始まるの?どれくらい強くなるの?

  2015年後半から2016年の3月まで、各月の世界平均気温が観測史上最高を記録する手助けをしてきた過去最強レベルのエルニーニョ現象がようやく終息に向かっています(この記事を書いているのが4月なので4月以降の世界平均気温も引き続き観測史上最高になる可能性はあります。また、エルニーニョは2015年の観測史上最高の世界平均気温と、2016年の1月から3月までが観測史上最も異常に暑い3ヶ月になった要因の一部ではありますが、大部分は地球温暖化が原因です)。

  さて、エルニーニョが終息したあと、夏から秋にかけてラニーニャ現象が始まると予想するニュースや気象関係機関の情報をよく見聞きするようになってきましたが、今後はどのような経緯をたどってラニーニャ現象に移行していくのでしょうか?最強レベルのエルニーニョに続くラニーニャもまた最強レベルになるのでしょうか?

  まず、ラニーニャとはどういう現象なのかから説明を始めましょう。

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エルニーニョ現象及びラニーニャ現象時における赤道太平洋付近の海面温度の偏差。上がエルニーニョ時で下がラニーニャ時。
Credit: IRI

  この地図は、エルニーニョ時(上)とラニーニャ時(下)における赤道太平洋付近の海表面温度を表しています。赤ければ平年よりも温度が高く、青い部分は温度が低くなっています。基本的に、エルニーニョ時には太平洋東岸の海面温度が高くなり、逆にラニーニャ時には同海域の温度が低くなります。

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上から通常時、エルニーニョ時、ラニーニャ時における赤道太平洋付近の大気と海洋の状況。
Credit: IRI

  上の地図は、通常時、エルニーニョ現象発生時、ラニーニャ発生時における赤道太平洋付近の大気と海洋の循環の違いを示したものです。ラニーニャ時には、エルニーニョと正反対の状況、または通常時の状況がより強まると考えればいいでしょう。太平洋東岸の海面温度が平年よりも低くなるため、東から西へ吹く貿易風が強くなり、海洋の湧昇流も強まります。これにより、深海の栄養分が豊富な海水が表層部へ上がってくるため、太平洋東岸では冬の漁獲量が増加します。

Nina_winterandsummer_620.jpg
Credit: NOAA

  以前にも記事にしましたが、ラニーニャ現象発生時の冬と夏の気候は上の地図のような影響を受けます。エルニーニョ時とは逆に、日本では冬の気温が平年よりも低くなります。

  では、現在終息に向かい夏から秋にかけて始まると言われているラニーニャへとどのように移行していくのでしょうか?また、ラニーニャはどれくらいの強さになるのでしょうか?

ENSO - Oceanic Nino Index since 1950.jpg
1950年以降のニーニョ3.4海域の海面温度の偏差。オレンジの点線よりも偏差が大きければエルニーニョ発生、青の点線よりも偏差が小さくなればラニーニャ発生と判断。
Credit: NOAA

  上のグラフは、1950年以降の赤道太平洋ニーニョ3.4海域における海面温度の平年との偏差を表しています。偏差がオレンジの点線(+0.5℃)よりも大きくなればエルニーニョ発生、青の点線(-0.5℃)よりも小さくなればラニーニャが発生したと判断されます。

  これだけでは少しわかりづらいので、通常の強さのエルニーニョと今回のように強い勢力のエルニーニョが発生した後の同海域の海面温度の変化を比較してみます。

ENSO - Sea surface temperature during and after El Nino.jpg
1950年以降の通常の強さ(上)と強い勢力のエルニーニョ(下)の発生時と1年後におけるニーニョ3.4海域の海面温度の偏差。オレンジはエルニーニョ、青はラニーニャ。太字は偏差が1.5℃以上かマイナス1.5℃以下で、強いエルニーニョ、強いラニーニャと区別されているもの。
Credit: NOAA

  先ほどのグラフと、上の表の通常のエルニーニョ発生時(上部)を合わせて見ると、1957-58年、1965-66年、1991-92年、2002-03年のエルニーニョの1年後の値を見ると、ラニーニャが発生したと判断する閾値である-0.5℃を下回っておらず、エルニーニョの後に必ずラニーニャが発生するとは限らないことがわかります。

  しかし、上の表の下部、強いエルニーニョ現象発生後の値を見ると(3回しかないのでサンプルサイズとしてはとても小さいですが)、3度ともラニーニャが発生しています。今回もこれまでと同じ経緯をたどるとすれば、エルニーニョ終息後にラニーニャが続くと考えられます。

  では、仮にラニーニャが発生するとした場合、どれくらいの強さになるのでしょうか?上の表を見る限り、強いエルニーニョの後に強いラニーニャ(偏差がマイナス1.5℃以下)が続いたのは1972-73年の一度だけで、1982-83年はかろうじてラニーニャが発生、最強と言われている1997-98年のエルニーニョ後のラニーニャよりも、特別強いわけでもなかった1987-88年のエルニーニョに続いたラニーニャの勢力の方が強く、強いエルニーニョ後に続くラニーニャもそれに比例するように強くなるとは限らないようです。

ENSO - Nino34det_ERSST_compare_mar_620.png
1950年以降に発生したエルニーニョ現象時におけるニーニョ3.4海域の月平均海面温度の偏差。
Credit: NOAA

  上のグラフは、1950年以降のエルニーニョ発生時におけるニーニョ3.4海域の月平均海面温度の偏差を表しています。同じエルニーニョは二度と起こることはなく、また、サンプルサイズも小さいため、今後を正確に予測することは大変困難であると言えます。先ほども述べたとおり、これまでの例にならえば、夏から秋にかけてラニーニャ現象が発生すると予想できます。

  要点をまとめると、以下のようになります。

  1. エルニーニョの後にラニーニャが続くとは限らない。
  2. でも、強いエルニーニョの後には必ずラニーニャが発生する。
  3. ただし、強いエルニーニョの後のラニーニャが強くなるとは限らない。
  4. たぶん夏から秋にかけてラニーニャが発生するが、強くなるかどうかは誰にもわからない。

  エルニーニョ・南方振動(ENSO)は、それくらい複雑で不確かな要素が多いのです。

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