以前、『【よくある間違い】人為的温暖化説はコンセンサスを得られていない』という記事で、人為的気候変動に関するいくつかのメタ分析(複数の研究の結果を統合した分析手法)の結果を挙げて、「20世紀後半以降の気温上昇の大半は人間活動による温室効果ガスの排出が原因」という仮説がコンセンサスを得られているという話をしましたが、エクソンモービル社による長年にわたる温暖化対策の妨害や、同社とコーク産業による気候変動否定派のネットワークを構築して行ってきた世論と政界の操作、メディアによるアンバランスな報道などにより、気候科学者間で人為的気候変動のコンセンサスが得られていることを知っているアメリカ人はわずか12%しかおらず、気候科学者との間には認識に大きな隔たりがあります。
気候変動否定派である保守系のコラムニストたちが「気候変動の科学はコンセンサスを得られていない」という、証拠を伴わない自説をメディアで展開し、一般市民の気候変動に対する認識を混乱させてきたことも大きな要因のひとつです。
保守派が行ってきたような、気候変動に関する誤情報の流布はとても効果的で、正しい情報を打ち消すには十分でした。また、米メディアが気候変動関連の報道をする際に、気候変動否定派と正しい情報を発信する側とを対等に扱う誤ったバランスの取り方を繰り返してきたことも、一般市民が気候変動に対する誤った認識を持つ原因になっています。
そこで、これまでに気候変動のコンセンサスに関する研究論文を発表したことのある7人を含む16人の研究チームが、単発のメタ分析ではなく、いくつものメタ分析を統合して分析する「メタ分析のメタ分析」を行い、「コンセンサスに関するコンセンサス」の有無を調べたところ、気候科学者間では90%から100%の高いレベルでコンセンサスが得られているという研究結果が科学誌「エンバイロメンタル・リサーチ・レター」に発表されました。
これまでに発表されたメタ分析の中には、気候科学者ではない、気候変動の科学を専門としていない「他分野が専門の科学者」を対象に気候変動に関する認識を調査したものもありました。そのような調査では、人為的温暖化を否定する科学者が多く含まれるため、温暖化の原因が人間活動であると回答する割合が低くなるのです。例えば、あるメタ分析では、経済地質学者の47%のみが温暖化の原因は人間活動であると回答するなど、関連性が低い分野の科学者が多く含まれると、必然的に合意形成に至っていないと受け取ることができるような結果になります。気候変動否定派は、気候変動の科学に疑いを投げかけるために、高いレベルでコンセンサスを得られている研究結果ではなく、合意レベルの低い研究結果を利用します。
Credit: University of Queensland, John Garrett
しかし、気候科学に関する研究論文を定期的に発表している科学者が大半を占めるメタリサーチでは、上の図のように97%や100%などの高い割合で人為的気候変動の合意形成ができています。
Credit: University of Queensland, John Garrett
上のグラフは、コンセンサスの割合の高さ(縦軸)と、専門性の高さ(横軸)の関連性を表したものです。気候科学の専門性が高くなるほど、合意形成の割合も高くなっていることがわかります。
今回の研究によって、「人為的地球温暖化のコンセンサスは得られている」というコンセンサスは得られたと言っていいでしょう。
気候変動対策の遅れによる破滅的な影響を防ぐために、ありもしない気候変動の科学に関する議論があるかのような気候変動否定派の情報発信を終わらせなければなりません。
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【参照】
Cook J, Oreskes N, Doran P, Anderegg W, Verheggen B, Maibach E, Carlton S, Lewandowsky S, Skuce A, Green S, Nuccitelli D, Jacobs P, Richardson M, Winkler B, Painting R and Rice K 2016 Consensus on consensus: a synthesis of consensus estimates on human-caused global warming Environ Res Lett 11 048002
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