たかが0.5℃、されど0.5℃~気温上昇1.5℃と2℃には大きな違いがあるという研究結果

  2015年に世界195ヶ国が合意した「パリ協定」では、「2100年までの気温上昇を産業革命前と比較して、1.5℃に限りなく近い2℃未満に抑えること」を目標と定めましたが、現在の二酸化炭素排出ペースでは2℃未満に抑えるのはかなり厳しく、今すぐに二酸化炭素排出量をゼロにしてもあと0.66℃気温が上昇するという研究結果もあるなど、先行き不透明よりもお先真っ暗という表現の方が近い状況です。

  また、米航空宇宙局(NASA)によると、2016年3月の世界平均気温は1951年から1980年までの平均気温と比較して1.29℃高くなっていました。NASAが偏差を計算するための基準としている1951年から1980年までの平均気温を産業革命前と比較すると0.3℃上昇しているので、それに3月の偏差である1.29℃を加えると、現時点で産業革命前からすでに1.59℃も気温が上昇していることになります。

  今年はエルニーニョの影響を受けており、さらに夏以降にはラニーニャが発生する可能性が高いため、現在よりも気温が下がる可能性はありますが、エルニーニョによる気温上昇分は0.1℃と言われており、おまけにエルニーニョの影響を受けていない2014年と、後半の数ヶ月だけ影響を受けた2015年の世界平均気温が2年連続で観測史上最高を記録したのは太平洋十年規模振動が正位相に移行したことが原因で、今後も正位相が続く可能性が高いと予想されていることからも、ラニーニャの影響を受けて一時的に気温が下がることはあっても、またその後は上昇傾向が続くと考えられます。

  このように、2100年までの気温上昇を1.5℃未満に抑えることは現状ではほぼ不可能(テクノロジーが劇的な進化を遂げて、大気中の二酸化炭素を除去もしくはどこか二度と大気に戻ってこない場所に貯留できるようになれば可能)、2℃未満も風前の灯火なのですが、そもそもこの気温上昇を2℃未満に抑えた場合と、1.5℃未満に抑えた場合とでは、いったいどんな違いがあるのでしょうか?

  今回、IPCCの第5次報告書で用いられた気候モデルを基に、この0.5℃の違いが気象現象や海面上昇、作物の収穫など11項目に与える影響をシミュレーション解析したところ、無視できない大きな違いが見つかったという研究結果が科学誌「Earth System Dynamics」に掲載されました。

  主な項目を挙げると、2100年までの海面上昇は、1.5℃上昇した場合では40センチですが、2℃上昇すると50センチと10センチの違いが出ます。2081年から2100年までの20年間に海面が上昇するペースは、1.5℃未満に抑えた場合は2℃上昇に比べて30%遅くなります。

  熱波が発生する期間は、世界平均では1.5℃上昇で1.1ヶ月、2℃上昇では1.5ヶ月ですが、地域によって差があり、熱帯地域では1.5℃の場合には2ヶ月、2℃だと3ヶ月と、大きな違いが生じます。

  水資源の利用性についても地域差があり、地中海地方では1.5℃の気温上昇で9%、2℃上昇の場合は17%も利用できる水資源が減少してしまいます。

  現在、エルニーニョが主な原因と言われている世界規模の珊瑚礁の白化も、2050年までに気温が1.5℃上昇すれば世界の珊瑚の90%が、2℃上昇すると98%にそのリスクが生じますが、気温上昇のペースが緩やかで2100年までに1.5℃の上昇だと白化リスクを70%に抑えることができます。逆に言えば、1.5℃未満に抑えない限り、珊瑚が環境に適応するのは難しいということです。

  農作物の収穫量は、基本的に熱帯地域で世界平均よりも減少率が大きい、または増加率が小さくなるようです。麦は特にその傾向が強く、世界平均では1.5℃の気温上昇の場合で2%増、2℃では増減なしですが、熱帯地域ではそれぞれ9%減、16%減となっており、熱帯地域が大きな影響を受けてしまいます。

  主な項目と気温の上昇幅による違いは以下の表で確認してみてください。

Schleussner et al 2016 Summary.jpg

  2100年までに上昇する気温の幅が大きいほど深刻な影響を受けるのは間違いないので、少しでも気温を上昇させないように最大限の努力を続けるしかありません。

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【参照】
Schleussner, C.-F. et al. Differential climate impacts for policy-relevant limits to global warming: the case of 1.5 °C and 2 °C. Earth System Dynamics 7, 327–351 (2016).

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