米国立雪氷データセンター(NSIDC)によると、4月初旬から防衛気象衛星計画(DMSP)の「F17」と呼ばれる気象衛星の観測データが不正確な値を示すようになったため、観測が一時的に中断されました。
海氷面積が最小だった2012年と2016年の1月から5月までの北極の海氷面積(単位は百万平方キロメートル)
Credit: NSIDC
上のグラフの丸で囲んだ部分を見れば、何が起こっているのか一目瞭然だと思います。
F17が機能しなくなったことによる最も大きな打撃は、今後数年間、北極の海氷面積のデータが欠損してしまう恐れがあることです。F17とそれ以前の同方式で海氷面積を算定する衛星によって、1979年以来35年以上にわたって安定した観測データを蓄積してきましたが、それが途絶える危機に面しています。
気象衛星の寿命は約5年と短いため、数年に一度は後継機を打ち上げて観測データの欠損を防いでいます。F17は2006年から稼働しており、予定よりも長い期間機能していましたが、今後F17が行ってきた観測を引き継ぐ予定のF18も2009年の打ち上げからすでに6年以上が経過しているため、どれくらい観測可能か不透明です。また、F18に次いで2014年に打ち上げられたF19は、運が悪いことにすでに機能が停止していて使い物になりません。
さらに良くないのは、すでに完成している最新の気象衛星F20が、共和党が過半数を占める米議会によって予算計上を阻止され、打ち上げの予定が全く立たない状態に陥っていることです。
今年は北極圏の記録的な暖かさの影響を受け、海氷の冬期最大面積が観測史上最小を記録し、今夏の最少海氷面積がどうなるか懸念されているこのタイミングで、雲の影響を受けずに夜間も海氷の観測が可能な、信頼性の高い受動型マイクロ波センサーによる観測データの欠損は、気候変動に対して脆弱な極地域の気候と、その中緯度地域への影響を把握するために必要な気候モデルによるシミュレーション解析の際のデータ不足に繋がるため、大変な痛手です。
日本も衛星による海氷面積の観測を行っており、F17と同じくマイクロ波を使用していますが、異なるセンサーを搭載しているため、これまでにDMSPの衛星が集積してきたデータとの統合が難しく、さらに日本の衛星は2012年に打ち上げられているため、いつ寿命が来てもおかしくない状況です。ヨーロッパの気象機関にも極地域を観測する衛星を打ち上げる予定がありますが、2020年以降になる可能性が高いと言われており、データの欠損が懸念されます。
北極の海氷面積の話題を取り上げたついでに、日本の衛星による5月2日時点での北極の海氷面積を見てみましょう。
2016年と観測史上最も海氷面積が小さくなった3年の北極海氷面積の変化(単位は百万平方キロメートル)
Credit: 国立極地研究所 北極域データアーカイブ
NSIDCによるデータ集積が中断された4月初旬以降、日毎の観測史上最小面積を更新し続けています。
このような時期にデータの欠損が出るのは不運としか言いようがありませんが、米議会には一刻も早く衛星打ち上げのための予算案を通してもらわなければいけません。
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