日曜日(5月1日)にカナダのアルバータ州フォート・マクマレーで始まった大規模な山火事の勢いは、金曜日(5月6日)になってもおさまる気配を見せていません。
鎮火した地域は焼け野原のようになり、炎上した自動車が折り重なっている様子が消火にあたった消防士によって撮影されています。
フォート・マクマレーの山火事が熱波によって引き起こされたこと、その背景に暖冬と積雪量の少なさがあったことは別記事で述べましたが、約1週間にわたってカナダ西部が熱波に見舞われているのは、「オメガブロック」と呼ばれる気象現象が原因だそうです。
この「オメガブロック」は、主に西から東へ流れるジェットストリームの速度が落ちて大きく湾曲し、ふたつの谷に低気圧が、谷に挟まれた尾根の部分に高気圧が長期間停滞することによって起こります。図にするとわかりやすいので、5月5日の500ヘクトパスカルのジオポテンシャル高度の予想図を見てみましょう。
Credit: WX Shift
この配置図は、ジェットストリームの流れを表したもので、赤い部分にはカナダ西部に熱波をもたらしている高気圧が、青と緑の部分(米東部と米西部太平洋沖)には、低気圧が停滞しています。カナダが熱波に見舞われているのとは対照的に、米北東部は平年よりも気温が低くなっています。
この低気圧と高気圧の配置を囲んでいるジェットストリームの流れが、ギリシャ文字のオメガの大文字「Ω」に似ていることから、「オメガブロック」と呼ばれています。ジェットストリームの流れを線で描くと、以下のようになります。
先ほども述べましたが、ジェットストリームの速度が落ちると大きく湾曲し、その尾根と谷にはまった高気圧と低気圧は、ジェットストリームの流れに合わせてゆっくりと移動するため、同じ地域に長時間停滞します。高気圧が停滞する地域(今回の場合はアルバータ州フォート・マクマレー)は熱波に見舞われて乾燥し、逆に低気圧が停滞する場所では気温が低くストームに見舞われやすくなります。
ジェットストリームの速度は、北極圏と中緯度地域の気温差が大きければ大きいほど速く、小さければ小さいほど遅くなります。速ければ湾曲は小さく、速度が落ちると南北に大きく湾曲します。つまり、気候変動によって北極圏の気温が他の地域の約2倍の速さで上昇していることにより、ジェットストリームの速度は落ちやすく、湾曲しやすくなっているのです。
北極温暖化増幅と呼ばれる現象によって北極圏の温暖化は加速度的に進んでいます。その影響が北極圏だけにとどまらず、中緯度地域の気候にも及んでいるのは、『北極の温暖化と中緯度地域における極端な気象現象の関係』で詳しく説明していますが、気候変動が進むほど、今回のような熱波による山火事が発生しやすくなっているのは間違いないでしょう。
カナダ西部の熱波は土曜日まで続き、日曜日以降は太平洋側から流れてくる湿った冷たい空気によって気温も下がり、雨も期待できるようです。しかし、それまでは山火事の延焼が続き、これまでの2倍の面積が焼失するかもしれないと言われています。
今は、被害の拡大が少しでも小さくすむように祈るのみです。
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