気候変動による余剰熱の90%以上が海洋に取り込まれ、海水温が上昇しているという話を以前にしたことがあります。温度が上昇すると海水は膨張し、海面上昇に繋がります。
他にも、ほとんどの人が注目していない海水温の上昇による弊害があります。
温度が上昇すると、海水にとけこむ酸素の量が少なくなります。また、冷たい水は沈みやすく温かい水は沈みにくいという特徴によって、海水温が上昇すると従来のように深海との海洋循環がスムーズに行われなくなり、空気中から取り込まれる酸素と、植物プランクトンの光合成による酸素を深海へ運ぶ能力が落ちてしまいます。
深海に酸素が運ばれなくなると、海洋生物が生きるために必要な酸素が減るため、生き残ることが困難になります。
しかし、これまではセオリーとして温暖化が進めば海洋の酸素が減少する(大気中の酸素も減少しています)ことは知られていました。今回、このまま温室効果ガス排出量を削減しなければ、2030年から2040年には人間活動に起因する海中の酸素の減少が顕著になるという研究結果が科学誌「Global Biogeochemical Cycles」に掲載されました。
気候変動による海洋の酸素減少が検出可能になる時期(Long et al. 2016)
上の地図は、人為的気候変動による海水の酸素の減少が、何年頃に検出できるようになるかを表しています。南オーストラリア沖や西アフリカ沖などではもうすでに酸素減少は始まっており、米カリフォルニア沖は2030年までに、日本の太平洋側は2040年頃、日本海側でも2070年までには海中の酸素が減少し始めます。
しかし、すべての地域で均等に酸素減少が始まるわけではなく、2100年までに顕著な変化が見られない地域もあります。
先ほども述べましたが、海洋生物は酸素がなければ生き残ることができません。そして、海洋が温暖化すれば深い海域ほど酸素の量が減ることになります。さらに、酸素が減少する一方で二酸化炭素が増加することで海洋の酸性化が進み、珊瑚やナンキョクオキアミなどの海洋生物が危機的状況に陥っています。
今回の研究は、海洋の酸性化と並んで人間活動が海洋生物に与える脅威を表しており、これらの現象をスローダウンさせるには、迅速な二酸化炭素排出量の削減が必要です。
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【参照】
Long, M. C., C. Deutsch, and T. Ito (2016), Finding forced trends in oceanic oxygen, Global Biogeochem. Cycles, 30, 381–397, doi:10.1002/2015GB005310.
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