気候変動関連ニュースが科学的事実に基づいているかどうか、気候科学者がチェックして成績をつけるプロジェクト

  科学ジャーナリストたちがインターネットを通じて環境問題や気候変動に関する情報を発信していますが、そのすべてが科学的事実に基づいているとはいえず、世界的に名前をよく知られているフォーブスやテレグラフ、ウォールストリート・ジャーナルなどの記事の中には、誤情報(意識的なものも含め)を含んでいるものもあります。

  一般の人の多くは「有名紙だから間違った情報を発信することはないだろう」と考えてしまい、書かれていることを事実として鵜呑みにする場合の方が多いのではないでしょうか。

  情報発信者の中には、科学者としてのバックグラウンドを持っていない者も含まれており、気候科学をある程度理解していれば間違いに気づくことができるような内容であっても、一般の読者が誤情報を見抜くのは簡単ではないと思います。そして、「意識的に」誤情報を発信する側はそれを利用してその誤情報を広げようとします。

  日本は気候変動関連情報が少なく、ニュースメディアなどが発信している記事の多くは、海外で大きく取り上げられたニュースや研究結果の要約を短めに伝えるだけなので、間違った翻訳をしない限り誤った情報として伝わることはないと思いますが、気候変動関連の英語の情報は多く、長めの記事で詳細を伝えるため、細かい部分で科学的事実とは微妙に異なる部分や、最新ではなく古い情報が使われている場合があり、気候科学にある程度通じていない人がそれに気づくことは困難です。

  そして、メディアが流す誤情報を誤情報だと知る術もなく信じる人が増えた結果、気候科学者の90%以上が人為的気候変動を科学的事実と認識しているのに対し、アメリカでは一般人の約半数しか温暖化の原因が人間活動であることを認めていません。

  そのような誤情報が広がるのを防ごうと、気候科学者が参加して、主なニュースメディアのジャーナリストたちが書いている気候変動関連記事の事実チェックをして採点し、成績を公表するプロジェクト「Climate Feedback」が注目を集めています。

  Climate Feedbackは、2015年1月から、気候科学者たちがニュースメディアの記事の内容が研究結果などによる科学的事実に基づいて書かれているかどうかをチェックし、間違っている部分や正しい部分にマークをつけ、解説文を挿入して記事内容を評価・採点し、ウェブサイト上に公開しています。

  これまでに、Climate Feedbackに参加している気候科学者による訂正箇所が多く、評価が極めて低かった誤情報だらけの英テレグラフ紙のミニ氷河期に関する記事が、このプロジェクトの指摘によって訂正・編集されたことがあるなど、一定の効果は見られるようです。

  わかりやすい例をふたつ、フォーブス紙とニューヨークタイムズ紙からひとつずつ取り上げてみましょう。どちらも「2015年の世界平均気温」に関するニュース記事です。予備知識としては、2015年は前年を大きく上回る観測史上最高の世界平均気温を記録しました。

  そのことについて、まずはニューヨークタイムズ誌のジャスティン・ギリス氏の「2015 Was Hottest Year in Historical Record, Scientists Say」に対する評価です。

Climate Feedback - Justin-Gillis_NewYorkTimes_2015-hottest-year-global-warming_screen-1024x566.jpg

  マイナス2点から2点までの評価で、1.9点という高いスコアを記録しており、採点した気候科学者によるコメントにも否定的なものはひとつも見当たらず、記事にマークをつけてコメントを加えてあるページでは、記事本文に注釈としてさらに詳細な科学的事実を加えてあるか、記事本文の表現を高く評価するものばかりです。

  次に、フォーブス誌のジェイムズ・テイラー氏の「2015 Was Not Even Close To Hottest Year On Record」を評価したページを見てみましょう。記事タイトルでは2015年は観測史上最も暖かい年には程遠いと主張していますが、これは気温測定方法で信頼性が極めて低い衛星によるデータでは、2015年ではなく1998年(最強と言われるエルニーニョの2年目)の方が世界平均気温が高かったためです。

Climate Feedback - James-Taylor_Forbes_2015-not-hottest-year-on-record_screen-1024x650.jpg

  評価はマイナス1.8点ととても低くなっています。むしろこの記事がなぜマイナス2点じゃないのか理由が知りたいくらいです。気候科学者による評価も、「誤解を招く」「地表じゃない場所の温度を推定し、他の方法以外で唯一1998年が観測史上最も暖かい年になっている衛星のデータを使うのか」「読者を混乱させようとしている」など、大変評価が低くなっています。これほど科学を無視し、政治的な信条に基づいて気候変動の科学そのものを否定している記事を見かけることはそうありません。

  数十年間にわたって数十億円を注ぎ込んで気候変動の科学を否定する運動をしてきたコーク兄弟が出資している、極めて保守色の強いシンクタンク「ハートランド・インスティテュート」で上級研究員を務める科学の学位を持っていないジェイムズ・テイラー氏が書いた記事なので嘘ばかりなのは当たり前なのですが、それでも記事に対する評価ページのサマリーに書いてあるように、同じフォーブス誌の別のジャーナリストが書いた2015年の世界平均気温が観測史上最高だったことについて正しい内容を伝えている記事の18倍も読まれているのは問題です。

  まだ始まって1年半に満たない小さなプロジェクトですが、気候変動に関する情報が正しいのか間違っているのかを知りたい人にとっては、誤情報を指摘して正しい情報を教えてくれるClimate Feedbackのようなメディアは必要であり、ありがたいものだと思います。

  課題は、一般の人たちへの周知徹底をどうするかと、一般の人たちにとって敷居の高くない、読みやすい内容にしていけるかどうかでしょう。内容があまりにも科学的で専門知識を要するものになると、わかりにくくて読者が増えない可能性があります。

  このプロジェクトが今後大きく成長できるかどうかは、いかに一般の人たちに受け入れてもらえるような内容にしていけるかにかかっていると思います。

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