気候変動によってジカ熱やデング熱を媒介する蚊の生息域が拡大するという研究結果

  気候変動による気温と湿度の変化が原因で、ジカ熱や黄熱病、デング熱などの感染源となるネッタイシマカの生息域が拡大し、気温上昇の最悪のシナリオで人口が最も増えた場合、最大で90億人近くが蚊の媒介によって疾病に感染するリスクがある生息域に住むことになるという研究結果が科学誌「Climatic Change」に発表されました。

  地球上には、約3,500種の蚊が存在しますが、デング熱やジカ熱、黄熱病、チクングンヤ熱を媒介するネッタイシマカは、その中でも最も一般的な蚊のひとつです。ネッタイシマカによって毎年約3億9千万人がデング熱に感染し、最近南米で猛威を振るっているジカ熱も、この蚊による媒介が大きな要因になっています。

  現在、世界の全人口の約63%が、このネッタイシマカの生息域である温暖で湿潤な熱帯と亜熱帯地域で生活していますが、今回発表された研究によると、気候変動による温暖湿潤地域の拡大に伴って生息域も広がり、現在よりも多くの人たちがネッタイシマカが媒介する伝染病の脅威にさらされることになるそうです。

  研究チームはまずネッタイシマカの生息域を、気候に対する適性を基準に以下の4つのカテゴリーに区分しました。

タイプ1: 年間を通じて大量発生(例: フィリピンのマニラ)
タイプ2: 年間を通じて発生するが、大量発生する季節がある(例: タイのチェンマイ)
タイプ3: 季節によって発生し、卵が冬を越すことができる(例: アルゼンチンのブエノスアイレス)
タイプ4: 季節によって発生するが、卵は冬を越せない(例: メキシコのプエブラシティ)

  下の地図は、上の区分に従って1950年から2000年までのネッタイシマカの生息域を表したものです。

Monaghan et al 2016 - Mosquito area 1950-2000.png
1950年から2000年までのネッタイシマカの生息域(Monaghan et al. 2016

  地図上の赤い部分(タイプ1)がネッタイシマカの繁殖に最も適した気候で、年間を通じて大量発生している地域です。世界のどの地域でどれくらいネッタイシマカが分布しているか、上の地図を見ればよくわかります。

  研究者らは、中くらいと最悪のふたつの二酸化炭素排出量シナリオ(RCP4.5とRCP8.5)を用いて、2061年から2080年までの間にネッタイシマカの生息域がどのように変化するかをシミュレーション分析したところ、中間の排出量シナリオ(RCP4.5)では生息域が8%拡大、最悪のシナリオ(RCP8.5)では13%の生息域拡大に繋がり、拡大した地域では2億9千8百万人から4億6千万人がネッタイシマカによる感染症の脅威にさらされることになります。

Monaghan et al 2016 - Future Mosquito areas.png
上: RCP4.5シナリオに基づく2061年から2080年までのネッタイシマカの生息域
下: RCP8.5シナリオに基づく2061年から2080年までのネッタイシマカの生息域

  これらの地図は、上述したふたつの排出量シナリオによるシミュレーションを地図で表したものです。紫色の部分は、薄い色から濃くなるに従って、ネッタイシマカがより繁殖し大量発生するようになる地域です(上で挙げた気候への適正タイプを参照)。一番濃い紫の地域は、現在のところ季節によって大量発生していますが、年間を通じて大量発生するようになります。緑色の部分はその逆で、薄くなるほど発生する量が減少します。

  気候変動の影響で気温が上昇することによって、これまでネッタイシマカが繁殖するには涼しすぎた北アメリカ、ヨーロッパ諸国、アジア、オーストラリアなどの中緯度地域と、熱帯及び亜熱帯地域の山岳地帯など標高が高い地域で発生するようになります。

  今後も世界の人口は引き続き急速に増加すると予測されていますが、それに伴って拡大したネッタイシマカの生息域で生活する人口も増加します。

  現在のところ、ネッタイシマカの生息域の人口は約38億人ですが、もしも2061年から2080年までの人口が85億人まで増加した場合は、38億人に加えて22億から25億人(合計60億から63億人)が、110億人まで人口が増加した場合には48億人から51億人が加わって合計86億人から89億人がネッタイシマカの生息域で生活することになると研究チームは指摘しています。

  今回の研究で対象となったネッタイシマカの日本における生息域は限られているようですが、同じヤブカ属でネッタイシマカ同様デング熱やジカ熱を媒介するヒトスジシマカが沖縄から東北まで分布し、平均気温上昇に伴ってその生息域を北へと拡大させています。

  気候変動によるジカ熱やデング熱などの伝染病の大流行を防ぐには、温室効果ガス排出量削減の実施も必要ですが、蚊は山積みにされたタイヤやバケツ、植木鉢の受け皿、防水シートのたるみ、空き缶、ペットボトルの蓋などにわずかな水たまりがあれば繁殖する能力を持っているため、蚊が大量に発生・繁殖しやすい環境を人間が作らないように気をつけることが重要です。

【関連記事】

【参照】
Monaghan, A. J. et al. (2016) The potential impacts of 21st century climatic and population changes on human exposure to the virus vector mosquito Aedes aegypti, Climatic Change, doi:10.1007/s10584-016-1679-0.

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