2015年に世界で殺害された環境保護活動家は185人にのぼり、過去最多になったという報告書を、国際非営利組織であるグローバル・ウィットネスが発表しました。この数字は前年の2014年から60%も増加しており、森林伐採や天然資源の採掘に伴う開発事業者側による、開発に反対する現地住民やジャーナリストへの暴力や迫害が以前よりも深刻化していることを表しています。また、グローバル・ウィットネスはこの数字は氷山の一角に過ぎず、もっと多くの活動家が殺害されていると指摘しています。
(上)2010年から2015年に殺害された環境保護活動家の分布地図。(下)2015年に殺害された環境保護活動家の国別人数。
Credit: Global Witness
報告書によると、185人のうち最も殺害された活動家が多かった国はアマゾンを有するブラジルで50人、フィリピンの33人とコロンビアの26人が続きました。殺害されたジャーナリストの数は、2014年から倍増したそうです。
42人が鉱石の採掘関連で殺され、その他の分野では森林伐採やダム建設に反対する活動家が多く殺害されました。
しかし、報告書の作者であるグローバル・ウィットネスのビリー・カイト氏は、多くの国では殺人事件が必ずしも報告されていない可能性が高く、それらの国ではブラジルの50人を超える活動家が殺されているかもしれないため、この185人という数は氷山の一角だと考えていると述べています。
ホンジュラスでダム建設に反対していた先住民の活動家、ベルタ・カセレスさんが複数回の殺人予告を受けた後に、自宅で何者かに頭を撃たれて殺された事件が、彼女が環境保護に貢献した草の根活動家として「ゴールドマン賞」を受賞した著名な人物であったことからメディアに大きく取り上げられました。
グアテマラで河川を汚染しているとしてパーム油採取に反対していた教師は、裁判所のすぐ外で何者かによって銃で撃ち殺されました。
生物の多様性を脅かすとして金の採掘に反対していたペルーの活動家は、自宅近くで何者かに撃たれて死亡しました。
ブラジルのアマゾナス地域で地元コミュニティの土地収用に反対していたドスサントス・サルバドールさんは、誘拐後に殺害されました。
インドのバーラーガート地区における砂の違法採掘を批判していたジャーナリストのサンディープ・コタリさんは、誘拐後体中に打撲による傷を受け、焼死体となって発見されました。
フィリピンミンダナオ島の先住民で鉱物の採掘に反対していたディオネル・カンポスさんとベロ・シンゾさんは、武装した3人組に自宅から引きずり出され、村の人々や学校の子どもたちの目の前で処刑スタイルで殺害されました。
このようにして2015年に殺された活動家のうち、実に40%近くが先住民でした。彼らの多くは、人口が多い地域から離れた、熱帯林や山地などの奥地に暮らしていることにより人目につきにくく、事件が起こっても犯人が特定されることが少ないため、森林開発や鉱物の採掘を行う事業者(によって雇われていると推測される者たち)のターゲットになりやすいのです。
また、被害の中心となっている国々で伐採された木材やパーム油、鉱物などの天然資源(多くの場合が違法)を原材料として作られた製品の単価が下がったことにより、企業はより多くの製品を製造販売しなければ利益が出なくなったために、より広大な土地を開発して資源を確保する必要に迫られていることも、活動家の殺害件数が急増した原因とみられています。
これらの事件の中には、まだ容疑者逮捕に至っていないケースもあります。多くの場合は、地元の政府や役人、企業、時には地元警察が直接的もしくは間接的にこのような事件が起こりやすい環境を作っているのです。
報告書は、各国や国際社会がもっとこのような天然資源の開発の対象となりやすい地域や活動家の安全を確保し、徹底した犯罪捜査を行う必要があり、また、政府などの権限を持っている者は、開発対象となりやすい先住民などが暮らす土地の権利が誰にあるのかを明らかにするべきであると指摘しています。
このブログでも、以前にインドネシアとマレーシアのパーム油を巡る環境正義問題に関する記事を書いたときに触れましたが、これらの事件は、私たちの生活とまったく関係がないわけではありません。違法伐採された木材によって作られた製品や、熱帯林を乱開発して作られたパーム油を使った製品、多くの命の犠牲の末に採掘された鉱物を使った宝石やスマートフォン、パソコンなどは私たちの周りに溢れています。そして、土地だけでなく命まで奪われている先住民や現地住民のほとんどが、そのような製品を手にすることはありません。
私たちがこのような環境正義問題を生み出している当事者であるいう自覚を持ち、自分が手にしているもの、自分が手に入れようとしているものがどのような経緯で自分の手元まで辿り着いたのかに興味を持って、製造元や販売元にサプライチェーンの詳細について確認することによって、報告書に書かれているような理不尽な殺され方をする地域住民やジャーナリストを減らすことができます。
すべては、私たちの日常生活と繋がっているのです。
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