貧困国ほど極端に暑い日が増加するという研究結果

  世界の累積二酸化炭素排出量が増加すると平均気温が上昇するという研究結果や、平均気温が上昇すると特定の地域で極端に暑い日が増えるという研究結果はこれまでにも発表されてきましたが、世界の累積二酸化炭素の上昇と特定地域における極端に暑い日の増加に直接的な関連性があるかどうかについての研究結果はありませんでした。

  今回、英イースト・アングリア大学が率いる研究チームが、初めて累積二酸化炭素排出量の増加が特定地域における極端な暑い日の増加の原因となっており、その深刻な影響を最も受けるのは熱帯地域の貧困国であるという研究結果(Harrington et al. 2016)を科学誌「エンバイロメンタル・リサーチ・レターズ」に発表しました。

  研究チームは最先端の気候モデルを用い、産業革命時代には0.1%の確率でしか起こらなかった日毎の平均気温を「極端に高い日毎の平均気温」と定義し、20世紀から21世紀にかけての累積二酸化炭素排出量と局所的な極端に高い日毎の平均気温の変化をIPCCの最も排出量が多いシナリオによってシミュレーション解析したところ、最も貧しい20%の国(低緯度地域に集中)では、排出量が少ないにもかかわらず、排出量が多い最も豊かな20%の国(中緯度地域に集中)と比較して極端に暑い日が著しく増加することがわかりました。

  ソマリアやジブチがある「アフリカの角」と呼ばれる地域や、西アフリカなど赤道付近の貧困国が集中する地域で極端に暑い日が急速に増加すると研究チームは指摘しています。

  このシミュレーション結果を現実のものにしないためには、二酸化炭素排出量を削減するしかありません。排出量の増加に伴う極端に暑い日の増加が貧困国に集中しているということは、排出量を削減することによって利益を最も受ける(被害を最小限に抑えることができる)のもまた低緯度地域の貧困国であると言えます。

  このような、気候変動への寄与と気候変動に対する脆弱性の不公正を指摘する研究結果は他にもあります。科学誌「サイエンティフィック・レポート」に掲載された研究結果は、アメリカやカナダ、日本、中国などの最も温室効果ガス排出量が多い国は気候変動による自然災害や居住環境の変化、健康への影響などに対する脆弱性が最も低く、逆にアフリカ(特にサハラ以南)や島しょ国などの温室効果ガスの排出量が最も少ない国は海面上昇や砂漠化などの気候変動による深刻な影響に対して最も脆弱であると指摘しています(Althor 2016)。

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温室効果ガス排出量と気候変動に対する脆弱性のバランスを表す世界地図とバランスチャート。aは2010年、bは2030年(Althor 2016

  上の地図は、温室効果ガスの排出量と気候変動に対する脆弱性のバランスを表しています。チャートの文字が小さすぎて読み取れませんが、縦軸は温室効果ガスの排出量(赤いほど排出量が多い)を、横軸は気候変動に対する脆弱性の高さ(緑が濃いほど脆弱性が高い)です。上は2010年時の排出量と脆弱性のバランスを、下は2030年の排出量と脆弱性のバランスをシミュレーション解析した結果です。

  地図上の茶色の国は排出量が多く気候変動の原因を作っているのに脆弱性が低く、気候変動に適応できる「フリーライダー」で、濃い緑は排出量が少なく気候変動にほとんど寄与していないのにその深刻な影響だけを引き受けさせられている国です。

  一目瞭然ですが、フリーライダーのほとんどが中緯度地域に分布する先進国で、不公正を押しつけられているのは赤道付近の熱帯地域とアフリカの後発開発途上国です。

  研究の執筆者のひとりは、このような気候変動への寄与の大きさと受ける影響がアンバランスで、途上国が理不尽を押しつけられている状況を受動喫煙に喩えて、先進国の喫煙が原因で途上国がガンになっているのだから、先進国が責任を持って途上国が治療するための費用を支払うべきだと指摘しています。

  これらの研究が示しているのは、気候変動の影響をすべての国が平等に受けるわけではないということです。二酸化炭素を大量に排出し気候変動の原因を作ってきた中緯度地域に位置する豊かな国よりも、二酸化炭素をほとんど排出していない低緯度地域に集中する貧しい国の方が海面上昇などの深刻な影響を受けやすく、気候変動に対して脆弱であり、しかも豊かな国はその影響に適応する能力が高いのに対し、貧しい国には適応能力が乏しいという不公正が起こっているのです。これは、気候正義問題として気候変動関連の国際的な会議でもその対応策について議論されてきましたが、パリ協定ではこのような不公正をなくすための対策は明確にされませんでした

  このような不公正をなくすためには、大量排出国が温室効果ガス排出量を削減するのはもちろんのこと、気候変動に対する脆弱性が高い開発途上国が適応策を講じるために必要な資金や技術を、気候変動の原因を作ってきた豊かな先進国と一部の急成長を遂げている途上国が速やかに滞りなく提供する義務を果たさなければなりません。

  いつまでもフリーライダーでいてはいけないのです。

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【参照文献】
Harrington, L., Frame, D., Fischer, E., Hawkins, E., Joshi, M. & Jones, C. Poorest countries experience earlier anthropogenic emergence of daily temperature extremes. Environ Res Lett 11, 055007 (2016).
Althor, G., Watson, J. & Fuller, R. Global mismatch between greenhouse gas emissions and the burden of climate change. Sci Reports 6, 20281 (2016).

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