気候変動が原因で雲の発生地域と高さに変化  気温上昇を加速か

  気候変動の科学の中で、最も不確実性が高い分野のひとつといわれているのが、温暖化に対する雲の役割です。雲は、地球に入ってくる太陽エネルギーを宇宙へ反射して気温上昇を防ぐ反面、地球から宇宙へ放射される熱を閉じ込めて地表の温度を上昇させる役割を果たしています。そして、雲が発生する地域や高度によって、温暖化を促進するのか(正のフィードバック)、抑制するのか(負のフィードバック)が決まります。

  まず、雲が温暖化にどう寄与しているのか、科学的にわかっている範囲でざっくりと説明すると、高度の低い場所に発生する雲は、太陽放射を宇宙へ反射して地表の気温上昇を防ぎ(夜間は逆に放射熱を閉じ込めて地表の気温を上昇させます)、逆に高い場所に発生する雲は宇宙へ放射されるはずのエネルギーを地表に向かって反射するため、熱を閉じ込めて気温を上昇させるブランケットの役割を果たしています。また、低緯度(熱帯や亜熱帯地域)の雲は、入ってくる太陽エネルギーが大きい分、より多くの太陽放射を宇宙へ反射しますが、高緯度地域では太陽エネルギーの入射角が小さい分、雲が反射するエネルギーの総量も小さくなります。

  これらを雲のフィードバックと呼びますが、総合すると、現在科学的に解明されている範囲では、雲は温暖化を促進する役割を果たしているといわれています。

  新たに科学誌「ネイチャー」に掲載された研究結果で、衛星による過去数十年の雲の観測データを解析したところ、従来からの気候モデルによるシミュレーション通り、南北半球の温帯中緯度地帯の雲の量が減少することで亜熱帯の乾燥地帯が極方向に拡大しているのに加え、雲の頂上の高度が温暖化に伴って上昇していることがわかりました。また、これらの現象が温暖化をさらに促進させることになると指摘しています。

Norris et al 2016 - Agreement between climate models and satellite records.jpg

気候モデルと衛星によるデータで1980年代から2000年代の雲量の変化が概ね一致した地域。青は雲量が増加、赤は雲量が減少(Norris et al. 2016)。

  この地図は、1980年代から2000年代にかけて、気候モデルと衛星によるデータの雲量の変化が概ね一致した地域を示しています。青は同期間に雲量とアルベド(太陽エネルギーを反射する能力)が増加した地域、赤は雲量とアルベドが減少した地域です。

 インド洋北西部、北西太平洋及び南西太平洋、赤道太平洋北部及び赤道大西洋北部で雲量とアルベドの増加が見られ、逆に南北半球の中緯度地域の海洋(特に北大西洋)、インド洋南西部、南太平洋の北西から南西にかけての熱帯地域において雲量とアルベドが減少しています。

  これらの変化は、大きく3つにまとめることができます。

  第一の変化は、亜熱帯の乾燥地帯が極方向へ拡大していることです。南北半球で北緯(南緯)20度から30度にかけて雲量が減少したため、乾燥地帯が拡大しています。

  第二の変化は、雨の多い地域(ストームトラック)の極方向への移動です。ストームトラックは、ジェット気流によって導かれる雨の通り道で、これが極方向へ移動したことが中緯度地域における雲量の減少に繋がりました。

  第三の変化として研究チームが指摘しているのは、雲の頂点が高くなっていることです。これは、温度の上昇に伴い、周囲の大気と比較して密度が小さくなり、雲の浮揚性が高くなることによって起こります。

  これらの変化は、従来から気候変動による温暖化が進めば起こると気候モデルが示してきた内容と一致しており、気候科学の正確性を裏付ける(気候科学における雲の不確実性が小さくなる)結果となりました。

  研究では、気候変動による温暖化がもたらしたこれらの変化が、さらなる温暖化をもたらすことになると述べています。

  雲の発生が極方向へ移動したことによって、低緯度地域では従来よりも海水面が太陽にさらされることになります。これまでは白い雲が太陽エネルギーを反射していましたが、それが減少して暗い海水面が大きくなり、より多くの太陽エネルギーを吸収するため、気温上昇の原因となります。

  また、低緯度地域よりも高緯度地域の方が太陽エネルギーの入射角が小さくなるため、太陽エネルギーの量も小さく、極方向へ雲が移動すれば、反射できるエネルギーの量も小さくなります。その結果、地球はより多くの太陽エネルギーを吸収することになり、さらなる温暖化に繋がります。

  最初に述べた通り、高い場所にある雲は宇宙へ放射されるはずの熱を閉じ込めるブランケットの役割を果たしています。雲が上昇することでより多くの熱を地表に向けて反射するため、さらなる気温上昇に寄与することになります。

  このような雲の働きを「正のフィードバック」と呼び、これまではセオリー上で温暖化が進めば上で述べたような雲の変化が起こるといわれてきましたが、それらの現象が実際に起こっているのを今回の研究結果が示したと言えます。

  この研究結果をきっかけに、気候変動の科学における雲の役割の不確実性は小さくなっていくと考えられますが、それでもまだ不確かな分野であることに変わりなく、さらに研究が必要なのは言うまでもありません。

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【参考ウェブサイト(英文)】

【参照文献】
Norris, J., Allen, R., Evan, A., Zelinka, M., O’Dell, C. & Klein, S. Evidence for climate change in the satellite cloud record. Nature (2016). doi:10.1038/nature18273

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